年下の彼は甘い甘い鬼
拾いもの


楽しい時間はあっという間に過ぎて

また来ることを約束して祖父母の家を出た


住み始めて一週間だけど

中央駅の改札を抜けると見慣れた景色にホッとする


このまま大通り沿いに歩こうかと思ったけれど
夜の色を発している繁華街を眺めたところで諦めてスクランブル交差点を渡ることにした


中学から全寮制の学校に通ったこともあって、近くの友達とは疎遠になってしまった

だから・・・友達はメールで繋がっているだけの距離の離れた人ばかり

先ずは働き口を決めて、それから・・・


友達ができると良いな、なんて考えていた私の目の前に


人が倒れていた


アパート近くの公園を囲むフェンスにもたれ掛かるようにして地べたに脚を投げ出している


慌てて駆け寄ってみれば呼吸を荒くした男の子?だった


「大丈夫?」


目元を覆う前髪の所為で表情は確認できないけれど
赤い頬と半開きの口から吐き出される息が苦しそう


「・・・ム、リ」


首元に手の甲を当てれば、熱さに手を引っ込めた


「大丈夫?救急車呼ぶね」


声を掛けながらバッグからスマホを取り出した手は


「・・・っ!」


男の子の手に捕まった


「呼ばな、くて、いい」


「でも、凄い熱だよ」


「いい」


肩で呼吸しながらゆるりと開いた目は潤んでいて焦点がブレている


救急車を呼ばなくても、此処に置いておく訳にはいかない


「誰か親御さんとか、迎えに来られる?」


捨てられた子犬みたいな目が私の不安も煽る


「いな、い」


「え」


仕事かなにかだろうか


「両親、は、死、んだから。ひとりぽっち」


例えようのない苦しさが掴まれた手から伝わってくるようで


迷っていた胸の内が決まった














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