年下の彼は甘い甘い鬼



「ほら」


強く食いしばった奥歯の所為で、真一文字に結んだ口元を長い指がツーと擦る


少し首を傾けて間近で射抜く双眸に絡め取られた視線が熱くて、お腹の奥がざわついた


「アズ」


ここで名前を呼ぶなんて狡い


『オネエサン』なんて柔らかな口調しか知らないのに


低くて甘い声とか


猫を被っていたのか


いや、猫なんて生易しいものじゃない
もっとこう、凶暴な・・・


[鬼]


ずっと騙されていたとは


年上を揶揄うにも程がある


「無理にこじ開けられたいのか」


本当は私だって怒っている

怒っているはずなのに
スッと細められた目に動きを封じられた


固まる私を動かしたのは、唇を擦っていた指がリズムを打つようにノックした時だった


「良い子だ」


奥歯の食い縛りを解いた途端


間近の彼との距離がゼロになった






「・・・んっ」






重ねられた唇が熱い




狡い




こんな熱に負けるか、なんて
1ミリも考える暇なんて無くて




与えられる熱に躊躇う








解きかたなんて




知らない私は




息を止めたまま




その熱に包まれた








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