年下の彼は甘い甘い鬼
南の街
今日入居したばかりの二階建てアパートは築三十年
中央駅まで徒歩十分ほどの好立地で、近くに公園まであるのに、手頃な家賃が魅力
審査が通るまでの一週間はホテル暮らしをするつもりでいたのに
親切な不動産屋さんの交渉のお陰で三日で入居できることになった
六畳の寝室にカウンターキッチンを備えた十二畳のリビングダイニング
リフォーム済みの快適な間取りは日当たりのいい南向き
◇
━━━四月一日
息苦しいあの街からキャリーバッグと大きなバックパックで出て来た日
不安しかなかったけれど
新しいスタートを切る場所にこの街を選んで良かった
「ただいま」
誰も居ないと分かっていても室内へ向けて声を掛けるのは防犯対策らしい
不動産屋さんの助言を律儀に守る自分に少し笑ってチェーンロックをかけた
ホームセンターと均一店巡りの買い物袋をドサッと床に置くと
重さの所為で握力の無くなった手は真っ赤になっていた
家具家電付きでも足りない物は無限に出てくる
大学を卒業してからの収入を貯蓄しておいて良かった
どうしても運べなかった寝具セットやカーテン類は即日配達便をお願いした
到着までに片付けを済ませてやる!なんて意気込んで、キッチン用品を詰めた袋を開けた
今時の百均と三百均はお鍋やフライパンは当たり前。お風呂の床磨き用の電動ブラシまである
布団やカーテン、洗剤以外は全て均一店で揃うって革命かもしれない
ただ・・・
ドラッグストアと同様、あれもこれも欲しくなるから
“必要最低限”と自分に言い聞かせるのが大変だった