年下の彼は甘い甘い鬼
「ただいま」
鍵を閉めてチェーンロックもかける
お弁当をテーブルに置いて寝室に向かうとベッドに寝転がった
「フゥ」
酷い脱力感に目蓋を閉じる
倒れている人を見て足がすくんでしまった
救急車を呼べなかったばかりか
黒を纏う彼の雰囲気に完全に飲まれていた
『医療従事者として自覚が足りないんじゃない?』
学生の時に実習で入った大学病院の看護師長の口癖を思い出し
「・・・足りない、よね」
出した声は酷く掠れていた
とても厳しくて真っ直ぐな師長は、常に真摯な態度で患者さんに寄り添うお手本のような人だった
大学を卒業してから一年間、怪我人を処置することのない内科勤務だったとはいえ
今日の私の不甲斐ない態度は反省すべきである
落ちていく意識の隅に
黒を纏う彼の背中が残った