年下の彼は甘い甘い鬼



大きなテーブルに並べた料理はお兄さんと菜々ちゃんが取り分けてくれた


風君は子供用の椅子に座って上機嫌だ


起きた湖々ちゃんはお兄さんが左腕で器用に抱っこしている


・・・・・・ぁ


その左手に視線が止まった


・・・なんだろう


夫婦の薬指には揃いの細い指輪。お兄さんの薬指の根元にだけ何かが描かれているように見えた


私の視線を辿ったのか、お兄さんが左手を動かした


「・・・ぁ」


「ん〜?コレ〜?」


薬指を見えるようにこちらに向けた


「ごめんなさい。見過ぎですよね」


気になるからと言って失礼にも程がある


小さく頭を下げた私に、お兄さんは


「俺たち兄弟はチームに入っていたからね?それの印みたいなもんかな」


「チーム?」


「そう。南の街の治安維持部隊」


「・・・治安維持部隊?フフ」


お兄さんの言葉のチョイスも面白いけれど、それならヒロも?


隣に座るヒロを見上げれば、左手の薬指にずっと巻いていた絆創膏を剥がした


「これ」


目の前に出された手を取る

そこにはアルファベットだろうか・・・一文字描かれていた


「アルファベットのL」


「エル?」


見上げたヒロの目が不安気に揺れている


今時珍しくないけれど、どうして隠していたんだろう


「怖がらせるかと思った」


・・・私のためだった


「ヒロ」


「ん?」


「描きたいと思うほど良いチームだったんでしょ?」


「うん」


「じゃあ隠したりしないで」


「・・・っ」


「チームの仲間まで隠してしまうことになるでしょ?」


「ほんとだ」


「私なら平気だから」


ヒロの居場所を怖いなんて思わない


「オネエサン。ありがとう」


「フフ。どういたしまして」


やっと笑顔になったヒロに安心した


「はいは〜い。お二人さん。俺たち家族のこと忘れてな〜い?」


手を叩くお兄さんの声に、ヒロと見つめ合っていたことに気づいた


「煩いな〜巧は。オネエサンもう帰る?」


「えっと、食べたい、かな」


料理に視線を落とした私をお兄さんと菜々ちゃんが笑った


「「フフ」」


初めての食事会は一気に打ち解けたお陰で、沢山食べて、笑って時間が過ぎた






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