元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

第八話 婚約破棄


 あの、階段からヘンリエッタが落ちた事件のあと、レインはしばらく屋敷で療養することになった。処分を受けたわけではない。ただ、レインが学園に行きたくないと駄々をこねたのだ。
 ユリウスに失望されるかと思ったそれは、意外にも簡単に受け入れられた。

 ただ、卒業式とそのあとのパーティーだけは参加すると決めた。
 ユリウスが作ってくれたドレスとイヤリングを無駄にしたくなかったからだ。ドレスくらいなんでもない、というユリウスに「記念ですから」と笑ったレインに、ユリウスは何か言おうとしていたようだった。

 けれど、失望の言葉が吐き出されれば今度こそ起き上がれないと思ったレインが、その言葉を後回しにさせたのだった。

 そうして、今日は卒業式当日。なんとか参加した卒業式のあと、歯を食いしばって帰ってきたレインを侍女たちはみな案じたけれど、レインは微笑んでそれを黙殺した。
 夜までには元気になるわ、と着付けを頼んだメイドは何度もレインに甘いお菓子をすすめてくれたし、髪を担当するメイドはレインの髪にいい香りの香油を塗ってくれた。

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