元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

第六話 想わぬ相手との婚約

 ユリウスのために第一王子オリバー・グレイウォードの婚約者となることを心に決めた後の日々は、思ったよりも楽なものだった。兄への想いを封印したからかもしれない。
 けれど時折泣いてしまいそうになることもあった。そのため、ユリウスに頼んで眼鏡を作ってもらった。兄の琥珀色の目と同じ色の意思がついた眼鏡は、レインの心を慰めてくれる。

 オリバーも、オリバーの側近もレインに優しい――多分。強引なところはあるけれど、快活なところはオリバーの美点だと思った。
 公爵家の養女だからと表立って何か言う人もいなかった。

 それはレインが第一王子の婚約者だったから――それも、強く望まれてのことだと、周知されていたからだろう。

「お兄様」
「レイン、また前髪を降ろしているのか? 髪が目に入ると危ないよ。せっかく綺麗な目をしているのだから」
「……はい」

 指摘されれば顔を出す。レインは、いつしか前髪を降ろして顔を隠すようになった。背筋だけはしゃんと伸ばしているけれど、自分の顔立ちを人目に見せたことでオリバーに見初められたらしいのが半ばトラウマになっていて、レインのこの顔は、積極的に人に見せたいものではなくなっていた。
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