誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
本当に優しく囁かれたその言葉。

完全にアドリブで原作の小説にもなくて、だけど、不思議と聞き覚えのあった言葉に、私は涙が溢れ出す。


そっと、耳元でささやかれたその言葉は、

きっと皇輝がピンマイクを上手く使ったことで、

しっかりと会場に響き渡り、会場からは、堪えられなかったような小さな歓声が所々で聞こえた。


「父上、姫君。行きましょう。」

「あ、ああ」


私を離した王子は、

呆然とする国王と婚約者を上手く誘導し、ステージからはけて行った。


私はあふれ出した涙をそのままに、取り残されたステージで、泣き崩れた。


それは紛れもなく、本物の涙で、

選んでもらえなかった悲しみと、変えられない王子との運命への失望。


そして―――。


全てが含まれたぐちゃぐちゃの涙だった。


+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.+.。.:*・゚

「妃花。」


俯いて泣きじゃくる私の目の前に、差し出された手のひらを辿って顔を上げると、優しい顔をした皇輝が立っていた。

もう二度と会えないと、失望していた私は安心感に包まれてまた涙が溢れる。


「立てるか?」


伸ばされた手が私の手のひらを掴み、支えながら私を立ちあがらせる。

そこで私はやっと体育館の観客に視線を向け、劇が終わったことを認識した。


鳴りやまない拍手の中、私たちは、深く深く礼をして、その演目を終了した。
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