【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない

藍くんの寝顔を見るのは初めて。

いつもの妖艶さはなりを潜め、無防備な寝顔は、あどけない子どもみたい。


目を閉じていると、ただでさえ長い睫毛がさらに強調されている。

まるで精巧に作られた彫刻のよう。


「綺麗……」


ほうっと見惚れて、ふと我に返る。

いけない、起こすという当初の目的を忘れていた。


手の中のカップケーキは、学校中を駆け回っている間にチョコチップが溶け出し、まわりのビニールに少しくっついてしまっている。


溶けてしまう前に食べてもらいたくて、就寝中に起こすのは躊躇われたけど、そっと彼の名を呼ぶ。


「……藍くーん」


けれど、藍くんは起きる気配がない。

「ん……」と形のいい唇から吐息が漏れるだけ。


「藍くん、藍くーん?」


体を揺すっていると、不意に腕を掴まれた。そして。

ベッドに引き込まれて、わたしの体はあろうことか藍くんの腕の中に。


「なっ、ぁえ……っ?」


強い力で抱きしめられて、わたしの頭は爆発寸前。
< 35 / 296 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop