学校は外よりかは涼しい。
じりじりとした日差しがないだけまだましだ。

涼しげな吹奏楽部の演奏を聴きながら二人で階段を上る。こつこつ、という足音が不規則に階段に吹き抜けていった。

だんだんと吹奏楽部の演奏は遠のいていき、世界から二人だけで切り離されたような感覚になる。

社会科資料室の重い扉に手をかけた。
ぐっと力を込めて右に引く。
みしみしという音とともに埃っぽい匂いが私の中に染み込んでいった。

いつも座る席についてそれぞれの作業を始める。

いつも通りの、変わらない日常。

社会科資料室の暗さも、この埃の匂いも、隣にいる桔梗も、桔梗を見つめるこの目も。

何一つ、変わっていない。

それが寂しくもあったし、嬉しくもあった。

刺激の多い毎日は楽しいし、充実する。だけどその分悩みも増えてしまう。
平凡な日々はつまらない。だけどその分、特に何かに不安を抱えることは少ない。

エアコンが効いていないからとにかく暑い。
ただ日差しはないから少しだけ楽だ。

気づいたら首元が汗で湿っていた。

「暑いな。休憩にするか」

それぞれが作業に入ってから一時間ほど経過していた。
時間の進みが本当に早い。

二人で廊下を進みながら話す。
自然と足は食堂に向かっていた。

「結局どこ行きたいか決めた?」

桔梗にそう聞かれて、その話を思い出した。

「まだ決めてない。でも海行きたいな」

言ってから、夏祭りの方が良かったかな、と思う。
そっちの方がよっぽどロマンチックだし、海なんて中学生ぐらいまでだろう。

「海か、行ったことないんだよな」

衝撃の発言に思わず大きな声をあげてしまった。

「え! 海行ったことないの?」

「うん」

高校生にもなって海行ったことない人とかいないと思っていた。
確かにここから海は少し遠いけど、それこそ小学生の頃とかに行きがちな場所だ。

「じゃあ私と初めての海、見ようよ」

気づいたらそんな恥ずかしいことを口走っていた。
顔が赤くなるのを感じながらにやけてしまった。

「見せてよ、海」
< 113 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop