「うん。上手だなって思って」

できるだけ普通に、自然に答えた。
何かしら攻撃されると思ったが、案外そんなことはなかった。

「上手だよね。意外」

笑っていて愛想が良くて、髙橋くんは見る目があるな、と思った。
なんとなく気が合っちゃって、その日の練習は二人でした。
緊張して瀬元さん、と呼んだら七海って呼んで、と言ってくれたのでお互い名前呼びをした。
私は基本的には下の名前で呼ぶが、名前で呼ばれるのにはあまり慣れていない。
それはずっと前から変わらないことで、高二になって関わる人が増えても慣れないままだ。

「この間は、ごめんなさい」

体育が終わって、教科書を抱えて校舎に戻る途中に話しかけられた。
別に七海のせいじゃないし、もう終わった話だ。
そのまま告げると、七海はちょっと気まずそうに笑っていた。

「でもほら、危うく牡丹を殴るところだったから」

この人は本当にいい人なんだろうな、と思った。
彼氏とはいえ、他人じゃん。
そんなことはさすがに言えない。

「おい牡丹ー」

後ろから大声で私を呼ぶ桔梗の声が聞こえて、七海は行ってあげて、と笑ってくれた。

「ごめん。また後でね」

うん、と笑顔で言ってくれて、不快に思われなくてよかった、と思う。
桔梗はこんなときにどうしたのかと今度は来た道を戻った。
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