嘘と恋とシンデレラ

 殴って突き落とされた、というのが(しん)なら、その考えが飛躍し過ぎた憶測とは言えないだろう。

 重たげな鼓動が苦しい。
 凍えるくらい指先が冷たくなった。

(でも、どっちが……?)

 額の傷については、どちらも何かを知っている上に隠している。
 どちらも怪しい。

 “知っていること”そのものが偽物の証拠にはならないのだ。

 もちろん怪我の真相は知りたいけれど、そこを問い詰めても意味はないかもしれない。

 尋ねて答えてくれたとしても、わたしには真偽の判断もつかないし。

 どう切り込めばいいだろう?
 本物だけが知っていて偽物は知らないこと、何かあるかな?

(うーん……)

 すぐには思いつきそうもなかった。
 頬杖をつき、視線を宙に向けて思い返す。

 額の怪我とその経緯(いきさつ)に関しては、ふたりとも似たようなことを言っていた。

 どちらかと付き合っていたわたしはその人からの暴力に悩み、それをどちらかに相談していて……。

 何とか別れてからもう一方と付き合うようになったけれど、元彼はストーカーになってしまって。

(ここまでは同じ)

 恐らく、ここまでは真実なのだろう。
 当たり前だ。

 どちらも当事者なのだから顛末(てんまつ)を知っている。
 だから偽物も間違わずに言える。

 しかし、最後だけ違っていた。

『あの日、きみは僕のところに逃げてきて“助けて”って。頭から血を流して、そのまま意識を失って────』

『それが許せなくて、あいつはお前を殴った。それで突き落とされた』

 どちらもあくまで主張としては、相手の方に怪我を負わされた、というものだ。

 それぞれを吟味(ぎんみ)すると、はたと気が付く。

(あれ? 待って)

 記憶と照らし合わせ、はっきりと違和感を覚えた。

 ふたりからその話を直接聞いた日の夜、断片的に蘇ってきた記憶。
 わたしが突き落とされた瞬間のこと。

 それを思い出した以上、歩道橋の階段から突き落とされた(、、、、、、、)こと自体は事実として確定出来る。

 ということは────。

(星野くんは嘘をついてる?)
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