皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました

消えていく私の場所


ここで話をしていて、とっくに1時間目は始まっている。そろそろ戻ろうと声をかけ、階段を降りている時に


「バイト先に来るかもよ?だって幸子のバイト先知ってるじゃん!」


背中から聞こえる加南子の声。

なんだか前にもこうやって黒川君とやり取りしたなと、またしても少し思い出す。




「…加南子私。今まで何とかしなきゃって必死で一人で頑張ってきたけど…。私ね、傷つくのに疲れたみたい。」
「…幸子。」




期待して駄目だったら?
それなら最初から期待しなきゃいい。だってあの人は、元々住む世界が私とは違いすぎる。


「黒川君の顔、たまに加南子の携帯でコッソリ見せてね。」

気が向いたらねとジョーダン混じりに言われながら、私達は教室に戻っていった。





そして熱愛の話題は余程他に話題が無いのか、黒川君の人気度が高いのか連日続いてるらしく、何日経ってもお祭り騒ぎらしい。


「幸っちゃん!瑠色と付き合ってるなら言ってよ!!ビックリしてうちの人、家の中で転んじゃって全治伸びたのよ?」

この前だって朝にお弁当を貰いに寄って、ママさんから興奮気味に言われた言葉。

「いや…うん。てか店主大丈夫?」
「何か娘を取られた気分らしくて、怪我よりふて腐れてたわ。」
「フフ…。また今度顔見に行くから。ママさん、いつもお弁当ありがとう。」




平穏だけど平穏じゃない。

彼に会う度、自分の知らない世界や初めての体験に、驚いたり振り回されたり感情が忙しい日々だった。

だけど刺激的で楽しかった。

テレビも携帯も無い私だったけどこんなに楽しい経験が出来て嬉しかった。

それがポッカリと無くなって…。
何もかもが無くなって…。

またいつもの私に戻っただけなのに、黒川君が居ないとこんなに心が苦しいんだよ。





< 150 / 168 >

この作品をシェア

pagetop