皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました

思い出すここの場所。
ここで何度も黒川君とお喋りして、少しだけ恋人みたいなスキンシップもした。

笑ったり、怒ったり、呆れたり。

黒川君とここで過ごしたことは嘘じゃない。偽物彼女でも、ここで二人で過ごした時間は本当なんだよ。


「元々こういう風に世間にバレるまでの役目だったからさ。知名度上がる為にはスキャンダルでも何でもいいって本人が言ってたし。」
「…そんな。」



「ねぇ加南子…私ね。











黒川君が好きなのに、もう私要らないみたい。」


「……っ。」


加南子が急いで立ち上がって、ギュッと抱き締めてくれる。
加南子は私より少し背が高くて、ロングヘアに、シャンプーの匂いをさせて私を優しく抱き締めてくれた。



「泣け!いっぱい泣け!」
「ぅぅぅ…。」

止まっていた涙が抱き締められたことでまた流してしまう。



そうか。

人に抱き締められると…こんなにも心地好いんだ。
こんなにも寂しくて苦しいのに、暖かい気持ちにさせてくれるんだ。

人の体温て、ホッとするんだね。



だけどようやく気付いた、

好きな人との温もりは特別だったんだ。



黒川君、貴方の繋いでくれた手が恋しい。



「でも流石にそれ酷くない?いきなりそんな切り捨てることある?瑠色から言われたの?」
「ううん…。秀…マネージャーさんから言われた。」
「え、じゃあまだわからなくない?てか、瑠色ってそんな薄情な男じゃないと思うけどなぁ。」
「なんでわかるのよ。」
「何年追いかけてると思ってるのよ。」


そういえば加南子は【瑠色】のファンだった。
こんな話を今更ながら話していいものかと少し戸惑ってしまう。


「でももう携帯も返したし、連絡手段もないから。」




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