余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「……そうだね。なにげないことが、誰かにとっては大事だったりするね」

 私も夜空に顔を向けて目を閉じ、夏の匂いがかすかにする空気を吸い込む。

「私も、今こうしてるだけで幸せ。花火も浴衣も、特別なものはなにもなくていい。心から笑って夏くんの隣にいられる。それだけで十分幸せだよ」

 大好きな人の顔を見て、言葉を交わして笑い合う。これ以上に贅沢なことはない。

 ひとつ深呼吸をし、口元を緩めて隣を向くと、いつの間にか彼もこちらを見ていた。わずかに熱っぽい瞳に捉えられ、同時に骨張った大きな手が私の頬に添えられる。

「なつ──」

 不思議に思ったのは一瞬で、次の瞬間には彼の顔がありえない距離に近づいていた。

 目に映るのは、前髪がかかるまつ毛を伏せた瞳。肌で感じる息遣いと、柔らかな唇の熱。花火の音だけが、どこか遠くに聞こえた。

 長いようで短い数秒間だった。唇を離した彼は唖然とする私を見つめ、やや申し訳なさそうにふっと微笑む。

「天乃があまりにも綺麗で、我慢できなかった」

 そこでぶわっと一気に顔に熱が集まった。心臓がバクバクと鳴って、うまく呼吸ができない。

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