君との恋のエトセトラ
「河合さん、良かったらこのお部屋を使ってください。今、お布団敷きますね」

皆で賑やかに夕食を食べた後、凛は航を和室に案内した。

二人とも今夜はここにひと晩泊まり、明日の朝の便で東京に帰ることにしていた。

「着替えの部屋着、父の物ですみません。古いですが新品のままですので」
「ありがとう」

受け取ると、航はふと仏壇に目をやった。

「あの、良ければお線香あげさせてもらってもいいかな?」

え?と凛は布団を敷いていた手を止める。

「君のお父さんに挨拶してもいい?」
「あ、はい。そんな…わざわざすみません」

航はおもむろに仏壇の前に正座すると、一礼してから線香をあげた。

写真を見ると、自分とさほど変わらない若い男性が優しく微笑んでいる。

(俺よりも数年長く生きたところでこの世を去ることに…。小さな可愛い女の子二人と愛する奥さんを残して。どんなに無念でどんなに辛かっただろう)

そう思うと胸が痛んだ。

両手を合わせて目を閉じ、心の中で語りかける。

(お嬢さんがいつも笑顔でいられるよう、出来る限りのサポートを致します。お母さんや妹さんが安心して暮らせるよう、私に出来ることを精一杯やらせて頂きます。どうかご安心ください)

ゆっくりと顔を上げると、もう一度写真を見る。
その笑顔は、自分の言葉に向けられているような気がして、航は小さく頷いてみせた。
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