君との恋のエトセトラ
「あー、疲れた…」

23時過ぎ。
ようやく帰宅した航は、ダイニングの椅子にドサッと座り込む。

ネクタイを緩めていると、ふとテーブルの上に小さな皿があるのに気づいた。

(なんだろう。焼き鳥?つくねか!旨そう…)

ラップをめくり、思わずパクッと口にする。

んー、旨い!と感激した時、カチャッとドアが開いて凛が部屋に入ってきた。
航はビクッと身体を縮こめる。

「お帰りなさい。どうかしましたか?」
「あ、ごめん。つまみ食いしちゃって…」
「ん?ああ!それ、河合さんのお夜食にと思って。でも手も洗わずに食べちゃったんですか?」
「うん。美味しそうでつい…」
「ふふふ、子どもみたいですね。今温め直します。お茶漬けも食べられそうですか?」
「あ、はい。いただきます」
「じゃあうがい手洗いしてきてくださいね」

凛はもう一度可笑しそうに笑うと、キッチンに立った。
手洗いを済ませた航は、ダイニングテーブルから声をかける。

「俺のことは気にせず、先に寝ててくれたら良かったのに」
「たまたま起きてたんです。そしたら物音がしたので。はい、どうぞ」
「ありがとう」

航は並べられたお茶漬けとつくね串を早速味わう。

「はあ、美味しい」
「良かったです。河合さん、夕食はどちらで?」
「クライアントと中華料理をね。でも胸焼けしてあんまり食べられなくて。俺の胃も、もう若くないのかな」
「やだ!河合さん、まだ20代でしょう?」
「うん。28」
「まだまだ若いじゃないですか」
「でも無理が効かなくなってきてさ。昔は徹夜しても平気だったのに」
「若くても徹夜はしてはいけません!」

はい、と航はうなだれる。

「食後のコーヒーも、カフェインレスにしますね」
「ありがとうございます」
「ふふふ!河合さん、今日はどうしちゃったんですか?なんだか可愛い」
「可愛い?!今、大の男に可愛いって言ったな?」
「ち、違いますよ。河合さんって言ったんです」
「嘘だね。絶対に言った」
「そんなにムキにならなくても…。河合さん、ひょっとして酔ってます?」
「何をー?営業マンが酔う訳ないだろう」

またムキになってる…と、凛は眉をハの字に下げた。
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