君との恋のエトセトラ
「よーし!二次会はカラオケだぞ」

居酒屋を出ると、ほろ酔いで肩を組みながら木原達が歩き出す。

航はどうにかして凛をタクシーに乗せようと思っていたが、凛は社員達に囲まれて話しかけることも出来ない。

仕方なく、航も皆と一緒にカラオケに行くことになった。

「それでは、歌います。凛ちゃんに捧げるバラード」

真顔でマイクを握ると、木原は大げさに感情を込めて自分の歌に酔いしれている。

「わあ、皆さん歌お上手なんですね」

次々と歌声を披露する皆に、凛は拍手をしながら感心する。

「ありがとう、凛ちゃん。営業マンだからね、つき合いでカラオケ行くことも多いんだ。凛ちゃんも何か歌う?俺達、盛り上げるのも上手いよ」
「え、私はいいです」
「そんなこと言わずにさ。じゃあリクエストで入れちゃおう」

戸田が何やら曲を入力すると、流れ始めたイントロに、わっと皆が盛り上がる。

「いいねー!凛ちゃん、歌って」

ええー?と困ったような表情で、凛が渡されたマイクを持つ。

仕方なく、今流行りのガールズグループの歌を歌い出すと、木原達が前に出てキュートな振り付けを踊り始めた。

「あはは!キモ可愛いな」

課長が笑いながら手拍子する。
凛も木原達を促すように楽しそうに歌い、その場は一気に盛り上がった。

「あー、やっぱり女の子がいると違うな」
「ほんとですよ。今までよく男ばかりでカラオケなんて来てたもんですね」
「確かに。こんな狭い空間にヤローがひしめき合うなんて、よく考えたらキモ過ぎる」

木原と戸田の会話を聞きながら、航は浮かない顔で向かいの席の凛に目を向ける。

隣に座る社員と楽しそうに話していた凛は、航の視線に気づいてふと顔を上げた。

目が合うと急に真顔になり、じっと航を見つめてくる。

(え、な、なんだ?)

たじろぐ航に、凛は真剣な声で言う。

「河合さん。そろそろはっきりさせましょう、例のこと」
「は?な、何?例のことって」

(もしかして、一緒に暮らしてることを?皆に話すつもりなのか?)

「いや、ダメだ。とにかく今はまだ…」
「いいえ。今ここで、皆さんにも証人になって頂きましょう」

そう言うと凛はタッチパネルを操作して曲を入力する。

洋楽のパラードのイントロが流れ、凛が航にマイクを差し出した。

「おー、航の十八番!久しぶりに聴きたいな」
「ヒューヒュー!この曲で落とした女は数知れず。いや、これで落ちない女はいない!伝説の男、河合さんのオンステージ!」

木原や戸田も拍手やヤジで盛り上げる。
航は、なんのこっちゃと眉間にシワを寄せつつ歌い始めた。

凛はじっと航の歌声に耳を傾けながら、モニターに釘付けになっている。

やがて歌が終わり、得点が表示された。

「98点!やっぱり嘘つきだー!」

凛はガバッとテーブルに突っ伏す。

「おお?どうした、凛ちゃん。航に嘘つかれたのか?そうかそうか、悪い男だからな、こいつは。俺にしときなよ」

木原が凛の頭をヨシヨシと撫でる。

「木原さん!隙あらば凛ちゃんに言い寄って。ダメですよ」
「何がダメなんだよ。俺はただ凛ちゃんを慰めてただけだぞ?」
「たった今、俺にしときなよって言ったじゃないですか」
「そう言って慰めてただけだ」
「なんですか?その屁理屈」

二人が言い合っているうちに、演歌のデュエットソングが流れ始めた。

木原と戸田は同時に顔を上げる。
その視線の先に、課長と並んで仲良く顔を見合わせながら歌っている凛がいた。

「あー、課長!ズルい!」

二人は結託して抗議の声を上げた。
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