君との恋のエトセトラ
木原が凛を連れてオフィスを出ていくのを、航は自分のデスクから横目で眺めていた。

油断するとつい凛のことを気にかけてしまう。

(いかんいかん。見ざる言わざる聞かざる…)

心の中で呟いてパソコンを打っていると、椅子のキャスターを転がしながら後ろの席の戸田が声をかけてきた。

「ね、河合さん」
「なんだ?」
「木原さんと凛ちゃんって、つき合ってるんですかね?」
「さあな。見ざる言わざる聞かざるだから、俺」
「は?何を言ってるんですか?」

キーボードに指を走らせつつ、航は戸田の言葉を聞き流す。

「俺、凛ちゃんのこと狙ってるんです。告白するなら今ですかね?」
「えっ、今?!よりによって今かよ?」
「ダメですか?だって、ボヤボヤしてたら木原さんに取られそうだし」
「いや、それはもう…。いかん、見ざる言わざる聞かざる」
「はあ?河合さん、猿のことしか頭にないんですか?」
「ああ、そうだ。俺は今、猿の惑星に住んでいる」
「うわっ、河合さんがバグってる。これは今月の成績トップ、狙えるかも!トップになったら凛ちゃんに告白しようかな」
「戸田。俺は見ざる言わざる聞かざるだからな」
「はいはい。分かりましたよー」

さーて、頑張るぞ!と、戸田は腕まくりしてパソコン作業に戻った。
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