君との恋のエトセトラ
「いらっしゃいませ!」
「こんばんは、凛ちゃん。唐揚げ弁当ある?」
「はい、まだありますよ。お一つでいいですか?」
「うん、ありがとう」

平日の夜のアルバイト。
すっかり常連客にも慣れ、凛はちょっとした会話を楽しみながらレジで会計をする。

「凛ちゃんが来てからすっかり妙さんの姿が見えなくなったね」
「はい。サウナやエステのサロンに行かれてます」

するとすぐ後ろの厨房から勝治が言葉を挟んだ。

「違うよー。銭湯と手もみ処だよ」
「でも妙さんにとってはサロンなんですよ」

そう言って凛はふふっと笑う。

凛が働いている間、妙は羽を伸ばして好きな時間を過ごすようになった。
近所の飲み友達と出掛けたり、スーパー銭湯でミストサウナに入ってからマッサージを受けたりと、いつもすっきりとした表情で帰ってくる。

「あー、凛ちゃんのおかげで私もこんな贅沢な時間が持てるようになったわ。幸せー!」

そんな妙を見て、勝治がほんの少し頬を緩めるのに凛は気づいていた。

(良かった。今まで妙さんがずっと一人で接客して忙しかったのを、勝さんも気にしていたんだろうな。素敵なご夫婦)

言葉はなくとも勝治が妙を思いやっているのが感じられ、二人の絆に凛はなんだか自分まで幸せな気持ちになった。

土曜日は9時間働く為、夕方の休憩時間になるとちゃぶ台を囲み、3人で他愛もない話をする。

「そっか、凛ちゃんそんなに小さい頃にお父さんを病気で失くしたんだね」
「はい。私は8歳だったので父との思い出もありますけど、妹は3歳だったので父の記憶もあまりないみたいで」
「そうよねえ。こんなに可愛い女の子を残してどんなに無念だったでしょうね、お父さん。それにお母さんも、心細かったでしょうね。それでも必死で凛ちゃん達を育ててこられたのね」

噛みしめるように呟く妙は、だんだん涙声になる。

「おい、辛いのは凛ちゃんだぞ」

湯呑みを握りしめながら勝治が咎めた。

「そうよね、ごめんなさい。凛ちゃんが明るく頑張ってるのに私ったら」
「いいえ。私、無理に明るく振る舞っている訳ではないですから。ここでアルバイトさせてもらって、本当に楽しくて。お二人のおかげです。ありがとうございます」

そう言って笑いかけると、また妙は目に涙を滲ませていた。
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