花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「マスターのところに転がり込んで、危ない目に遭ったら? 彼も男ですよ」

「万が一、明さんが私とそういう行為をすれば責任をとって結婚してくれって言います。手を出された方が話が早くて助かるくらいで。明さんが相手なら父や兄も納得しますし」

 言いながら、私だって明さんを利用しているじゃないかと苦笑い。無論、明さんの事は嫌いじゃない。ないけれど、恋愛対象なのかと問われれば答えはノー。はっきり言い切れる。

 明さんは宮田家のプレッシャーを緩和してくれるカーテンなんだ。カーテンは七光りや雑音を届かなくしてくれても共に切り拓こうとはしないから。隠れ蓑になるだけ。

「……」

 課長が黙った。相変わらず意図が読めない、読ませない構えをする。

「大体、課長は私を出世の道具としてしか見てないですよね? うちの女子社員等と合コンしているの知ってます。社内恋愛したいのであれば彼女達として下さい」

「合コンじゃなく親睦会と言って下さい。ところで、あなたは社内恋愛をしない主義だそうで?」

「はは、合コンでも親睦会でもいいですけど。そんな席で私の話をするなんて、どれだけ話題が無いのやら。仰る通り、私が社長の娘だからと言い寄る人と付き合いません。これは花森課長も含めてです」

 この際なので伝えておこう。

「……」

 課長は黙ったまま一向にハンカチを受け取らない為、私から距離を詰める。

 そして、携帯電話へ手を伸ばした時だった。身体がふわりと宙に浮く。

 膝の裏へ手を差し込み、寝室に連れ込む一連の流れがスローモーションで頭の中に再生された。
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