【マンガシナリオ】前略、恋文お返しするので婚約破棄してください。

第二話



○満咲家の庭(朝)
 木の上に登っているゆい子。


女中A「ゆい子様!!公爵家のお許嫁ともあろうお方が、そんなところに登るなんて!!」
女中B「降りて来てくださいませ!!」
ゆい子「いやっ!!」


 ぷいっとそっぽを向くゆい子。


ウメ「お嬢様!!早く降りてきませんと夕餉は抜きに致しますよ!」
ゆい子「それはもっといや!」


 いそいそと木から降りるゆい子。


ウメ「公爵家ではしたない真似はおやめくださいと何度も何度も!」※ガミガミ
女中A「ウメさんが来てくださって良かったわ。私たちでは手に負えませんもの」


 ウメに説教をされているゆい子のアップ。


ゆい子モノローグ「私は今、満咲家に住まわせていただいている。
というより、強引に住まわせられることになっていた」


○回想
榎本「家に帰る?このまま公爵家に住むんですよ。荷物は運び込まれる予定です。後からウメさんも来ます」
ゆい子「初耳なんだけど!?」


○回想終了・満咲邸の廊下
ゆい子「(ウメと榎本も一緒なのは良かったけど、こんな強引に!やっぱり最悪!!)」


 ドン!と誰かにぶつかるゆい子。


ゆい子「きゃっ」


 倒れそうになるが、抱き止められるゆい子。


椿「大丈夫ですか?ゆい子さん」


 ゆい子の腰にしっかりと手を回し、ゆい子を見つめる椿。ドキンという効果音。
 顔を真っ赤にさせるゆい子。


ゆい子「つ、椿様…!」
椿「おはようございます」※ニッコリ


 バッと勢いよく椿から離れるゆい子。


ゆい子「おはようございます!!」


 ピューっと一目散にその場を立ち去るゆい子。
 その後ろ姿を見送り、クスリと微笑む椿。


○満咲邸・ゆい子の部屋
ゆい子「(あんなに強引でムカつくのに、椿様本人を目の前にするとどうしていいかわからない…っ)」


 心臓がバクバクしているゆい子。


ゆい子「(だってまさか、郵便屋さんが椿様だったなんて!今まで郵便屋さんに色々言ってしまっていたのに…)」


 サーっと顔を青くするゆい子。


○回想
ゆい子「文の内容がどれも胡散臭いんです!」
椿(郵便屋)「ははは、胡散臭いですか」


○回想終了・ゆい子の部屋
ゆい子「(なーーんてこと言ってたから気まずすぎて顔合わせにくい……!)」


 はあ、と溜息をつくゆい子。
 その場に座り込んで丸まる。


ゆい子「いつも会いに来てくれていたなら、どうして名乗り出てくれなかったの……?」

ゆい子モノローグ「両親が亡くなって私のことを知っているのは椿様だけだったのに……」

ゆい子「……っ、きらい」


 涙ぐむゆい子。


ゆい子「椿様なんて嫌い……」


○庭の隅(昼)
榎本「お嬢様、またそんなところで拗ねてんすか?またウメさんに叱られますよ」
ゆい子「だって…」
榎本「もう観念して結婚しちゃえばいいのに」
ゆい子「そんな簡単に言わないで!!」


 溜息をつき、肩をすくめる榎本。


榎本「椿様の何が嫌なんすか?」
ゆい子「…愛がないじゃない」
榎本「そうっすか?」
ゆい子「私は父様と母様みたいに、愛し合って結婚したいの…」
榎本「そのうち芽生えるかもしれないんじゃないっすかねぇ。知らんけど」
ゆい子「適当なこと言わないで!!」


 ぷんすか怒りながら立ち去るゆい子。


榎本「――だそうですよ、椿様」
椿「……」


 木の後ろに隠れて聞いていた椿。


○屋敷の庭・池がある場所
ゆい子「(それにしても広いお庭…池まである)」


 池を覗くと鯉が沢山泳いでいる。


ゆい子「わあ!鯉がいっぱい!」※パアッと笑う


 しゃがみ込んで鯉を眺めるゆい子。


椿「鯉に餌を与えてみますか?」
ゆい子「いいのですか!?」


 嬉しそうに振り返るゆい子。
 椿の姿にハッとし、気まずそうに顔を背ける。


椿「そんなに僕が嫌いですか?」


 椿、ゆい子の隣でしゃがむ。


ゆい子「……きらいです」


 ゆい子、くるりと振り返る。


ゆい子「だって、会いに来てくださっていたならどうして!?どうして名乗り出てくださらなかったの…!?」


 泣き出しそうなゆい子のアップ。


椿「ゆい子さん…」
ゆい子「両親が死んで独りぼっちになって…許嫁なのに」


ゆい子モノローグ「ずっと会いたかった。会いに来て欲しかった。
夢の中では影ばかり。顔も声もわからない。わかるのは美しい字を綴られることだけ」


ゆい子「私を恋しく想うって書いてくださるのなら、直接会いに来て欲しかった…っ」


 ポンとゆい子の頭を撫でる椿。
 ポンポンと何度も撫でる。


ゆい子「(な、何それ…っ、私のこと子ども扱いしてる!?)」


 キッと椿を睨むゆい子。
 ゆい子の頬をつんとつっつく椿。


椿「ゆい子さんの頬はおもちみたいで可愛らしいですね」
ゆい子「(おもちーー!?
やっぱり私のこと子ども扱いして…っ)」


 切なそうな表情の椿のアップ。
 思わずドキッとするゆい子。


椿「…すみません、本当のことが言えなくて」
ゆい子「……っ!(そんな表情するなんてずるい)」
椿「あなたの前では、僕は……」


 グラリと倒れそうになる椿。


ゆい子「えっ、椿様!?」


 慌てて椿を支えるゆい子。


ゆい子「大丈夫ですか!?もしかしてどこか悪く…」
椿「なあんちゃって」
ゆい子「えっ」
椿「冗談ですよ。何ともありません」
ゆい子「……」
椿「心配してくれました?ゆい子さ…」


 パァン!という頬を叩く音。


ゆい子「…っ、椿様なんて大嫌い!!」


 泣きながらその場を走り去るゆい子。
 くっきりと頬についた手形を押さえながら笑う椿(不気味な雰囲気)。


椿「ふふ…っ」


○街の中(昼)
 屋敷を抜け出し、一人街の中をぶらつくゆい子。
 泣きながら歩いている。


ゆい子「椿様なんて知らないっ!絶対結婚なんかしないんだから…っ」


○回想・両親との思い出
 母の膝の上に座っている幼いゆい子。


ゆい子「かあさま、いーなずけってなあに?」
母「ゆい子のお婿さんになる方よ」
ゆい子「おむこさん?」
父「ゆい子の許嫁は満咲公爵家の椿様といって、それは立派な方なんだ。うちみたいな没落気味の子爵家に手を差し伸べてくださって…」


 ゆい子の頭を優しく撫でる父。


父「きっとゆい子のことを大事にしてくださる。椿様に幸せにしていただくんだよ」


○回想終了・現代に戻る
ゆい子「(会ったことはなかったけど、父様のその言葉を信じて早くお会いしたいと思っていた。
両親のように愛し合う夫婦になれたらいいのにってずっと憧れていたのに…)」


 ドスン!と誰かにぶつかったゆい子。
 柄の悪そうな男にぶつかる。


ゆい子「きゃっ、ごめんなさい」
男「どこ見て歩いてんだ!」
ゆい子「っ!」※ビクッと震える
男「ん?よく見たらなかなかの上玉だなぁ。吉原に売り飛ばしたらいい金になりそうだ」
ゆい子「えっ…」
男「ちょっと来いよ嬢ちゃん」


 ゆい子の細腕をガシッと掴む男。


ゆい子「っ、やめ……!」※ゾク…ッ


 突然グイッと引っ張られ、椿の腕の中にいるゆい子。
 椿、恐ろしい瞳で男を睨み付ける。


椿「汚い手で僕の許嫁に触らないでいただけますか?
うっかりその腕切り落としてしまいそうです」
男「なっ、お前は…!」


 顔面蒼白になって逃げていく男。
 ホッと胸を撫で下ろすゆい子。ゆい子の肩を掴み、心配そうに顔を覗き込む椿。


椿「ゆい子さん!大丈夫でしたか!?」
ゆい子「は、はい…」
椿「よかった……」


 はー…と肩で息をする椿。汗をかいている。


ゆい子「(こんなに汗をかいて…急いで私を探しに来てくださったの?)」
椿「先ほどはすみません。つまらない冗談であなたを不快にさせてしまいました」


 ペコリと頭を下げる椿。


ゆい子「いえ…そのことを謝るためにわざわざ追いかけてくださったのですか?」
椿「はい、これ以上あなたに嫌われたくありませんから」
ゆい子「……私こそ、叩いたりしてごめんなさい」
椿「ゆい子さん…とんでもないです!むしろあれはご褒美で…」
ゆい子「え?」
椿「あ、いえ、何でもありません」
ゆい子「?」
椿「それと、先程は話が途中になってしまいましたね」


 並んで歩きながら話す二人。


椿「許嫁といえど、結婚前に会うのは好ましくないとされているでしょう?僕もそう、父から会うことを許されませんでした」
ゆい子「…それは何となくわかってます」
椿「でも会わせてもらえないのは僕が未熟だからだと思っていました。勉学でも何でも磨いて公爵家の跡取りとして父の期待に応えれば、ゆい子さんに会えると思ったんです。
結局許してもらえず、あなたのご両親が亡くなった時も葬儀に参列させてもらえませんでした」


 ゆい子に向かって頭を下げる椿。


椿「改めてすみませんでした。一番辛い時に傍にいられなくて」
ゆい子「そんな…謝らないでください」


 顔を上げて優しく微笑む椿。


椿「…郵便屋として会うあなたは、いつも明るく笑顔で活発的で、裏表がなく素直で。辛いことがあっても笑顔を絶やさなかった。僕より六つも年下の女の子なのに」
ゆい子「それは…(人前では泣かないようにしてただけで)」
椿「だけど、一度だけ見てしまいました。あなたが人知れず声を押し殺して泣いている姿を」
ゆい子「……!」


 ぎゅっとゆい子を抱きしめる椿。


椿「あの時、こうしてあなたを抱きしめたかった」
ゆい子「椿様…!」※ドキドキ
椿「……なんて、今更言っても仕方ないですね」


 そっとゆい子を離し、真剣な眼差しでゆい子を見つめる椿。


椿「ゆい子さん、これからはずっとあなたの傍にいます。だからどうか、あなたの許嫁でいさせてくださいませんか?」


 椿の真剣さにドキッとするゆい子。
 頬を赤らめながら目を逸らし、くいっと椿の服の裾を掴む。


ゆい子「許嫁でいることくらいは…」
椿「ゆい子さん…つまり婚約破棄を破棄してくださるということですか?」
ゆい子「まだ許したわけじゃないですっ!結婚するかどうかは私が決めますから!」
椿「ふふっ、わかりました」


 嬉しそうに顔を綻ばせる椿。
 椿の笑顔に不覚にもときめいてしまうゆい子。


椿「でも結婚は絶対します」
ゆい子「なっ…!しません!」
椿「許嫁でいてもいいということは、いずれは結婚するということですよ」
ゆい子「うっ。でもっ、まだしませんから!!」


 ぷいっとそっぽを向くゆい子。


椿「……い」※ボソッと
ゆい子「え?何か言いました?」
椿「いいえ、何でも」※ニッコリ
ゆい子「?」
椿「(本当はねゆい子さん、名乗り出ても良かったんです。
でも僕のことで悩んだり怒ったりするゆい子さんがあまりにも可愛くて、もっと見ていたいと思ってしまったんですよ。
もっと僕のことを、僕のことだけを考えて欲しくて――)」


 椿の黒い笑みを浮かべた表情のアップ。
 椿の執着的な一面を垣間見せるシーン。

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