電話越しで副社長に恋をしました。

大手旅行会社で働いている私は、今年の新入社員である。
勤務地は札幌。
仕事内容は、店舗で働いているスタッフの制服の手配や勤務チェックと雑用だ。
オフィスには、札幌所長と、会計課長、総務課長、企画課長のおじさま役職者三人と、契約社員の私だけしかいない。
女子が私しかいないから寂しいけれど、皆さん親切にしてくれていた。
ただ、オフィスラブやランチの楽しい時間もなく、いつも一人で寂しく働いていた。
実は来年四月から北海道支部は東日本支部に吸収されることになり、おそらく私も東日本のどこかで勤務する予定になっていた。
「じゃあ、留守番頼んだよ」
「行ってらっしゃい、田辺さん」
総務課長を見送った。なぜか、うちの部署は、役職で呼んじゃいけない、名字にさん付けで呼ぶという、ルールがある。
他の皆さんは出張で誰もいないので、一人で留守番だ。データ整理をコツコツとやっていると電話が鳴る。
「お電話ありがとうございます。北海道支部、湯元でございます」
『丸谷です』
「お疲れ様です!」
副社長からだ。
心臓が、トクトクと鼓動を打つ。顔も知らないのに勝手に好意を抱いている。
だって、周りに恋する相手がいないし。
ときめきがないと、枯れてしまいそうだし!
……なんて、理由をつけているけれど、柔らかな話し方や気遣いができる雰囲気が好きだ。恋愛というか、憧れの存在というか、ただそれだけ。
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