【シナリオ】ネオ♡➷シンデレラ
episode.4


〇午前中・教室



あんり(午前は普通に授業あるなんて…。練習させてよ!)


心の中で嘆くあんり。
すると、頭の中で識の「インプットしてアウトプットする」という言葉がリピートされる。
脳内で曲を流し、識と踊る姿を想像した。
指でとんとんと足のリズムをとる。


あんり(右、右、左……)


そうしていると、突然先生に名前を呼ばれた。
慌てて想像をかき消す。


先生「この問題を解いてください」
あんり「えーっと、」


まったく見ていなかった問題だが、黒板の数式をざっと見たあんりが答えを言う。


あんり「√3/4(4分のルート3)です」
先生「正解です。ここの式は_」


正解してほっとするあんり。



〇更衣室



アンティークテイストの部屋。
ドレッサーの上におしゃれなデザインのコスメや髪飾りなどが置いてある。

黒子がブラシを手に持ち、座っているあんりにチークを塗っている。


あんり「自分でやるのに…」
黒子「黙ってあんり、リップが塗れないわ」


黒子の言葉にん、と口を閉じるあんり。
グロスを塗って艶のある唇に仕上げた黒子は、満足そうにうなずいた。
「もういいわよ」という黒子にあんりは長いまつげを瞬かせて目を開いた。

あんりはシンデレラのような青色のふわりとしたドレスを身に着けており、いつもおろしている茶色の髪の毛はハーフアップにされていた。
メイクもチークとリップが塗られたくらいで、元の良さが目立つ。


黒子「さて、仕上げね」
あんり「?」


あんりが選んだ黒子のドレスは深い赤色で、後ろが大きくVの字に開いて編み上げになっている。
全体がレース調になっているエレガントなドレス。
髪はいつものようにおろしているが、片方に流している。

仕上げ、と言った黒子は、ある箱をあんりに差し出す。


あんり「なにこれ?」
黒子「開けてみて」


言われた通り開いてみれば、そこにあったのはガラスの靴だった。
あんりの大きな目が、さらに見開かれる。
パッと黒子を見た。


あんり「これ、ガラスの靴…!?」
黒子「そう。私からプレゼントよ」
あんり「えっ、嬉しい、やばいすっごい嬉しい!ありがとう黒子~!!」


抱き着こうとするも、崩れるからだめ、と黒子は拒否する。
黒子は箱からガラスの靴を取り出し、あんりに履かせていく。


あんり「それくらい自分でやるって」
黒子「…いいえシンデレラ。今日は私が全部やるわ」


黒子があんりに手を伸ばす。


黒子「あんりの初舞台だもの。私が完璧にする」
あんり「……ありがとう、黒子」


伸ばされた手に手を重ね、あんりは立ち上がる。
あんりが満面の笑みで口を開いた。


あんり「黒子は、私の魔法使いだね!!」
黒子「………魔法使いなんて、柄じゃないわよ」
あんり「またまたぁ~!黒子も綺麗だよっ」


照れたようにそっぽを向き、黒子がそうつぶやく。
そんな彼女の様子に、あんりはふふっと笑みを深める。


黒子「からかわないで。そろそろ時間だから行きましょう」
あんり「うん!!」



〇ダンスパーティ会場・人が大勢いるホール



大きなシャンデリアが垂れ下がるホールは、おしゃべりをする人、食べ物を食べる人などであふれかえっている。
だが、コツ、コツ、とガラスのヒールを鳴らしあんりが会場に姿を見せたとき、一瞬シンと静まり返った。
あんりの隣には黒子がいて、手を引いて歩いていた。
あまりの美しさに全員が息をのむ。


あんりは気にせず誰かを探すそぶりをし、見つけるとそちらへ歩いていく。
そこには、きっちりとジャケットまで羽織った郁がいた。
郁と目が合ったあんりは、「会長~!」と装いに似合わずにこっと笑って手を振った。


あんり「こんばんは…にはちょっと早いか。こんにちは、会長」
郁「…こんにちは、灰音さん。びっくりしました、お綺麗ですよ」


少し目を見開いて言った郁に、あんりはえへへと笑う。
郁はあんりから、隣の黒子に視線を移した。


郁「薇さん、こんにちは」
黒子「………どうも」


素っ気なくそう言い、お辞儀をした黒子。
郁は特に何も思わず微笑んだ。


郁「それにしても灰音さん、足を痛めたと聞きましたが…」
あんり「えっ会長も知ってたんですか?全然平気ですよ~」


ほら、と足首を見せて回すあんり。
青のドレスからのぞく白い足首が映える。


黒子「……あんまり動かすとまた痛むわよ」
あんり「はぁい」
郁「仲がよろしいんですか?」
あんり「はい!自慢の大親友なんです」


嬉しそうに微笑んで黒子の腕に絡みつくあんりだが、黒子は無表情(いつも通り)で郁を見ていた。
郁がちらりと腕時計に視線をやる。


郁「そろそろダンスが始まりますね。…と言っても、肝心の王子様が来ていないようですが」
識「そんなものになった覚えはありません」


いつの間にか、黒のパーティスーツをぴしりと着た識が立っていた。※さりげなく銀髪の男子が描かれる
ジャケットもベストも黒だが、薄く花の模様が描かれている。
そんな識に向き合ったあんりが、意地悪っぽい笑みを浮かべた。


あんり「どう?」
識「……しゃべると馬鹿っぽくなるな」
あんり「は?そこは褒めるとこでしょうが!」


文句を言うあんりと、それ以上は何も言わず無表情の識。
すると黒子が「へえ」と口を開く。


黒子「じゃあ、あんりのこと綺麗だとは思っているのね」


黒子のそのセリフに、識の表情が険しくなった。
面白い反応を見た、と黒子がくすりと笑う。

会場に音楽が鳴り始めた。
ホールの中央が開き、2人はそこへ歩く。
向かい合い、深く礼をした。
そしてそっと近づき、腕を重ね、ダンスの姿勢に入る。

くるくるとステップを踏みながら回り、会場の人たちを虜にするあんりと識。
だがあんりが足に重心をかけたとき、ピリッと痛みが走る。


あんり(あ、やばい、(くじ)けるっ!)


ふらりと傾きそうになったあんり。
だが、識は腰に添えた手で寄せてぎゅっと距離を縮めさせた。
痛みとか挫けるとかそんなの関係なしに、あんりの心臓がバクバクと鼓動した。


識「俺と踊るからには、失敗は許されない」
あんり「……、そっちこそ私の足引っ張らないでよ!」


小声でそんな会話をする。
あんりは、今はただ意地を張ってそう言うしかなかった。

無事踊り終えた2人は、再び深く礼をした。
彼女たちに魅せられていた大勢が、ぱらぱらと拍手を送る。


あんり「わ、私もう帰る、っ」
識「あ、おい灰音!」


頬を赤くしたあんりが会場を去っていった。





走り去るあんりとそれを追う識を見て、2人が会話している。


郁「彼女のガラスの靴、あれは君が贈ったのですか?」
黒子「だったらなんでしょう」
郁「いえ、ずいぶん彼女に入れ込んでいるんだな、と」
黒子「……なにをおっしゃりたいので?」
郁「たいそうなことではありません。ただ、そのわけがわかれば彼女について知れるのでしょうかね」
黒子「あんりに手を出したら、」
郁「と、そんな冗談は置いておき。僕と踊りませんか、薇黒子さん」


黒子の言葉を区切りにこりとする郁に心底嫌そうにする黒子。


黒子「お断りしますわ」
郁「残念です」


方や腹の底が知れない笑みを浮かべる男。
方や心情が探れない無表情の女。

その会話は、もちろん誰の耳にも入っていなかった。







〇外・大扉を開けて長めの階段



ドレスの裾を掴み、階段を駆け下りるあんり。
は、は、と息を切らして走る。


あんり(私、なんでこんなにドキドキしてるの!?あんなにムカつく態度されてるのにっ!)


あんりの頭に、ダンスで距離が近づいたのが浮かぶ。
そしておろそかになっていた足元。
ガラスの靴を階段に残し、つまづいてしまう。


あんり「いったぁ…!」


すると、後ろに人影が現れる。※どこか最初と同じ構図
だが少し違ったのは、識がガラスの靴を拾ってあんりの前にしゃがんだこと。


識「どうしておまえはそう、すぐ靴が脱げる……」※呆れたように
あんり「…シンデレラだから」
識「そうか」
あんり「えっ信じたの?鷹宮くんピュア??」
識「冗談だ馬鹿。信じるわけないだろう」


あんりは心の中で、この人も冗談とか言うんだ…、とほうける。
識は自然にガラスの靴をあんりの足にはめた。


あんり「ぴったりだね、靴」
識「当たり前だろ」
あんり「ねぇ、私に堕ちそう?」


ささやくようにそう聞いたあんりに、識は顔を上げた。
そして、意地悪そうにふ、と口角をあげる。


識「……どうだろうな」


ドキン、と心臓が強く鳴った。
あんりが高鳴る心臓に俯いて思う。


あんり(もしかして私、こいつのこと…?)

識「寮まで送ってやる」
あんり「…え、なんか急に優しくない?」
識「怪我したやつを地面にほっぽっておくほど軽薄じゃない」
あんり「どの口が言ってんの」


識に腕を引っ張られて起き上がる。
2人で手を引きながら正面の門へと歩く姿。


M「シンデレラが王子様に堕ちたのか、王子様がシンデレラに堕ちたのか、はたまた両方なのか。それを知るのは、もう少し先のことです」
< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop