溺愛まじりのお見合い結婚~エリート外交官は最愛の年下妻を過保護に囲い込む~

妻としてふさわしくありたい

「再来月になるが、ベルギーから賓客を招いてレセプションパーティーが開かれる予定なんだ」

 朝晩の暑さがようやく緩んできた頃、夕食後に飲み物を用意していたタイミングで千隼さんが告げてきた。

 キッチンに立つ私に、彼が近づいてくる。肩が触れ合うほど近距離に立たれて、ドキリとした。

「小春に、同伴をお願いしたい」

 ついにそのときがきたのかと、思わず背筋を伸ばした。

「え、ええ。もちろん」

 震える声に私の緊張を感じ取った彼は、小さく苦笑しながら私の頭にぽんぽんと手を乗せた。

「とりあえず、フランス語で簡単に挨拶ができれば大丈夫だ。あとは俺がフォローするから」

 アイスティーを注いだグラスをふたつ手にした彼は、リビングへ向かっていく。その後に私も続き、並んでソファーに座った。

「最近、ますます語学の勉強に熱が入っているみたいだし、小春なら大丈夫だ。信頼してるよ」

 その無条件の信頼に、私も彼の特別になれたのかと安堵が胸を支配する。

 千隼さんと山科さんの抱き合っている姿を見て、しばらくの間は落ち込んでいた。
 夏バテだという下手な言い訳を、彼が本当に信じていたかはわからない。ただ、千隼さんはひたすら私の体調を案じていた。

 ずいぶん心配もかけてしまい、自分が彼の負担になっている現状にこれではますますダメだと、無理やり切り替えた。

 もし彼が山科さんに気持ちを残していようとも、今は私の隣にいてくれる。
 だから私も、自分のできうるすべてで千隼さんに応えたい。
 そう固く決意すると、ようやく前を向けた。

「期待に応えられるように、がんばるから」

 紅葉亭での仕事はそのままに、少しでも彼の力になりたくて努力を重ねている。もちろん、自宅で快適に過ごしてもらうための環境づくりにも余念がない。
 まるで、必死に彼を自分につなぎとめるように日々を過ごしている。

 グラスを受け取りながら意気込む私に、千隼さんは「頼もしい」と笑みを浮かべた。
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