溺愛まじりのお見合い結婚~エリート外交官は最愛の年下妻を過保護に囲い込む~
 中東で紛争が勃発したというニュースが、日本でも頻繁に報道されるようになる。ベルギーは隣接しているわけではないものの、周辺国も含めて移民の数がぞくぞくと増えているという。

 ブリュッセルは、もともと移民の多い地域だ。
 そこへさらに難を逃れてきた人たちが加わり、日に日に治安が悪くなっていると千隼さんが電話で教えてくれた。

『不本意だが、小春はこのまま日本にいた方がいいだろう』

「千隼さんは、大丈夫?」

『ああ。問題ない』

 彼の答えに安堵すると同時に、私がいなくても彼はひとりでやっていけるのだと、嫌な捉え方をしてしまう。
 千隼さんの身を心から案じているのは本当なのに、傍にいられない現状と山科さんの存在が私の心をかき乱す。

『一緒に暮らせないのは辛いところだが、今は我慢すべきだろう。なにより、小春を危険な目に遭わせたくないから』

 彼は〝辛い〟と言いながらも、私の安全を優先してくれた。一緒に過ごした時間は短いけれど、家族としての情は持ってくれているのだとほっとする。

「千隼さん……」

 たったこれだけの会話なのに、気持ちの乱高下が激しい。
 彼の近くにいたい。そうして本心が知りたい。

 でも、この状況下で私がベルギーに行けば、千隼さんの負担になりかねないのもわかっている。

 その後、父や義父とも話し合い、日本にとどまることを受け入れた。
< 56 / 154 >

この作品をシェア

pagetop