溺愛まじりのお見合い結婚~エリート外交官は最愛の年下妻を過保護に囲い込む~

もどかしい日々 SIDE 千隼

『千隼ぁ。父さんを迎えにきてくれよぉ』

 スマホ越しに聞こえた鬱陶しい口調に、思わず切ってしまいそうになる。
 相手は父で、翌日は休日だからと歳外にもなく飲み過ぎたらしい。

「タクシーを呼べばいいだろ」

『連れないことを言うなよぉ。今、紅葉亭で飲んでるから。な、な。待ってるからな』

 俺が反論するより先に、向こうから通話を切られてしまった。すかさずかけ直したが、応答する気はいっさいないらしい。

 紅葉亭といえば、元外交官だった父の友人が経営している店だと記憶している。
 何時まで営業しているか知らないが、まだ零時を過ぎたところだ。なんとか店が開いているうちに着けるだろう。

 わざわざ俺を呼び出すのは、友人相手に最近父の中でブームになっている、仲の良い親子像を見せつけたくなったからに違いない。

 いい歳をした大人のする振る舞いではなく、迷惑この上ない。
 一緒にいてほしいと願った幼少期には放っておかれたというのに、今になって擦り寄ってこられても煩わしいだけだ。つい邪険にしてしまうのも当然だろう。

 仕事が趣味のような父と、人付き合いがすべてだと思っている母は、政略結婚で一緒にった。
 俺の見る限りふたりの間に恋愛感情はなく、どうして夫婦で居続けるのか疑問に思うほどさっぱりとした関係だ。

 長男の俺が生まれると、母は役割を果たしたとばかりに自由に過ごしはじめたと聞いている。なにかの新作発表会だとか食事会などに、毎日のように出かけていくのは今でも続いている。
 さらに母は実家の営む会社にも籍があり、そちら絡みでも飛び回っていた。

 働き盛りだった父も、夜遅くに帰宅して早朝から出勤していくという日々だった。
< 57 / 154 >

この作品をシェア

pagetop