愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 父の俺への関心も早々に薄れるだろうと踏んでの判断だったが、次第に後悔の念が大きくなっていく。
 母は相変わらずだったが、父がやたらと俺に近づきたがる。こちらの都合も考えずに頻繁に呼び出されるようなら、考えものだ。

 今からでも家を出ようかと思案しながら、とりあえず今夜だけは妥協してやるかと車を発進させた。

 予想に反して、店はすでに閉店時間を迎えていた。
 後から聞いた話によれば、店主は相当な子煩悩らしい。まだ未成年のひとり娘も手伝いをしているということと、自宅は近いとはいえ深夜まで彼女をひとりでいさせるのは忍びないと、通常の居酒屋よりも閉店時間が早めに設定されていた。

 父は少し灯りを落とした店内で、店主である友人とふたりで飲んでいた。

「父が迷惑をかけたようで、すみません」

「いいえ。うちの父の方こそ、飲ませ過ぎてしまったみたいで、すみません」

 俺を出迎えてくれたのは、店主の娘の小春さんだった。
 高校生だという彼女は、明日は休みだからと遅くまで付き合って残ってくれていたようだ。

「自分たちでやるからいいって言ってたんですけど、私が放っておけなくて。もともと店の手伝いもしているので、その延長ですから。あっ、バイトは二十二時までに上がっているんですよ。これはボランティアです!」

 ユーモアたっぷりに明るく言い放った彼女がおかしくて、思わず吹き出してしまう。

 ただ、そうは言ってくれたものの、やはり申し訳ない。
 どうやら彼女は、簡単な料理まで作って出してくれていたようだ。それも自分が勝手にしたことだと言うが、そんなふうに気を遣わせた大人が悪い。

「おお、千隼じゃないか」

 絡んでくる酔っ払いを避けながら、せめてもとテーブルの上の食器を片づける。
 父にも手伝うように声をかけたが、まったく戦力になっていない。この様子だと皿を割ってしまいかねず、見かねて動かないように言い聞かせた。

「後はやっておくので、大丈夫ですよ――高辻のおじ様、息子さんを困らせたらだめですって。そろそろ帰りましょうね」

 疲れているだろうに、彼女は嫌な顔ひとつ見せない。それどころか終始笑顔を絶やさず、面倒でしかない酔っ払いたちにも優しく接していた。

 若い女の子に〝おじ様〟なんて呼ばれた父の顔が、見るからににやけている。
 少し前に、『娘もほしかったなあ』と誰にとでもなくこぼしていたくらいだ。それはきっと小春さんの影響を受けているのだろう。

 だらしない父を見ていると、さすがにこっちが恥ずかしくなる。さらにもう少しだけ手伝いをして、あらためて謝罪をしながら店を後にした。
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