溺愛まじりのお見合い結婚~エリート外交官は最愛の年下妻を過保護に囲い込む~

二年越しの新婚生活

 私が日本に戻って以来、二度目の春がやってきた。温かな日々が続き、心なしか街を行き交う人の足取りも軽やかになっている。
 特別によいことなどなくても、自然と浮かれてしまう時季なのだろう。

 父の負った大ケガは完全に癒え、祖父とバトンタッチして再び店を取り仕切るようになった。
 手伝いに来てくれていた料理人の岡本さんは、その後も父の下について料理の勉強を続けている。
 いずれは彼が紅葉亭を継いでくれるのかもしれないと、密かに期待している。

 父の復帰した日は、話を聞きつけて来てくれた馴染みの客が盛大に祝ってくれた。ずいぶんと照れくさそうにしていた父だが、まんざらでもない様子だった。
 そんな姿に、私が帰国をして紅葉亭を守り抜いたのは間違いではなかったと満足している。

 祖父は『今度こそ、本当に終いだ』と再び引退して、気ままな生活に戻っている。
 少しくらいゆっくりすればいいのにという私の言葉を聞き流し、友人に会いに行くと出かけていった。
 おそらくそれは口実のようなもので、本命は酒蔵を回ってくるつもりなのだと想像している。

 先日受け取った千隼さんからの連絡で、四月の初めに日本に戻ってくることになったと教えてくれた。そのまましばらくは、国内勤務になるという。

 その知らせに心が浮き立ったのはたしかだが、彼と顔を合せるのに躊躇してしまう。

 結局、私はベルギーに戻らないまま今に至る。
 他国で起こった紛争は、停戦を挟みつつ今でも続いている。その影響を不安視した千隼さんや両家の父親が、私の再訪に待ったをかけたのだ。

 外交官の妻ならばそんな事態も想定の範囲内で、国は渡航制限を出していないと主張してみたが、三対一では適うはずもない。

 私が無理に戻ったところで、かえって皆を心配させかねない。それどころか、足手まといになってしまうだろう。

 最終的に千隼さん本人から『小春を危険に晒すわけにはいかない』と言われてしまえば、従うよりなかった。
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