溺愛まじりのお見合い結婚~エリート外交官は最愛の年下妻を過保護に囲い込む~
 渋々とは言え納得して日本に残ったはずなのに、これでは結婚した意味がないと気分が沈んだ。
 不可抗力だとはいえ、千隼さんには申し訳ないばかりだ。名ばかりの妻でしかない現状に、罪悪感すら抱きそうになる。

 山科さんのように、彼と同じ目線に立って歩んで行ける女性だったら、現地で共に支え合っていけたのだろうかと何度も考えてしまった。

 カフェで話をして以降も、山科さんは紅葉亭に足を運んでくれる。

 でも、私との個人的な接触はなく、顔を合せれば感情の読めない複雑な表情を向けられる。
 そこに込められているのは、過去の話を聞かせてしまったという後悔なのか。それとも、千隼さんの役に立てていない私への非難だろうか。

 はっきりなにかを言われたわけでもないのに、彼女を見るとどうしても責められているような気になる。つい視線を逸らせてしまう私を、山科さんはどう思っているのだろうか。

 千隼さんには、山科さんとの関係をどうしても尋ねられなかった。
 彼女の話を、幾度となく思い返していた。そうするほど、ふたりは両想いだったのではないかと信じそうになる。

 千隼さんはとにかく優しくて、とても誠実な人だ。
 たとえ山科さんへの想いが残っていたとしても、結婚したからには無条件で私を尊重してしまうのではないか。

 もしくは、誠実だからこそ夫婦の体をなしていない私とは別れて、今でも想い続けてくれる彼女を選ぶのかもしれない。
 千隼さんから話を聞く勇気もないのに、そんな勝手な想像ばかりしていた。

 沈みがちな私を見て、義父は『千隼に会えなく寂しいと思ってくれているんだね』と、どこかうれしそうにする。
 それだけが理由ではないため後ろめたいが、なにも打ち明けられず小さく笑みを返した。

 父は『自分のせいですまない』と、幾度も謝罪する。
 そのたびに私は、自身も帰国を望んだし、戻れなくなったのは不安な世界情勢のせいなのだから謝る必要ないと宥めている。

 千隼さんが帰国すれば、大きな不安もやり場のない気持ちも解消されるのだろうか。
 悶々としながら、彼の帰国をただひたすら待ち続けた。

 そうしてベルギーに渡ってから二年が過ぎようというタイミングで、千隼さんの帰国が決まった。
< 83 / 154 >

この作品をシェア

pagetop