孤独な少女は優しさに堕ちていく。
今日は10月31日。

3年前に悲劇が起こった日だ。

日曜日だというのに、私はいつもと同じ時間に起きて、着替えをした。

今日こそ、今年こそ、家族のお墓に行きたかった。

行けるような気がした。

覚悟を決めて家を出る。

まだ日が出たばかりで、薄暗いなかいつもと同じ道を歩く。

私はゆっくりと墓地の前で歩みを止めた。

深呼吸して、昨日千景さんがくれた言葉を思い出しながら最初の一歩を踏み出す。

私の足は、墓地の中に入っていた。

一歩踏み出すことができただけで安堵で座り込みそうになる。

もう一歩、もう一歩、と、機械のように足を前に運ぶ。

半ば崩れ落ちるようにしてお墓の前に座った。

絶え間なく涙が溢れ、嗚咽が漏れる。

「お父さん、お母さん、碧葉っ、」

やっとここまで来ることが出来た。

3年間ずっと叶わなかったことがやっと叶ったのだ。

ここには骨しかないと分かっているけど、あの暖かい家の優しい雰囲気を感じたような気がした。


私はなんとか元気でやっています。
私のことを大事にしてくれる友達に、私に勇気をくれた人もいます。
だから、どうか心配しないで。
天国で見ていてください。


もう自分のせいで家族が死んだなんて思わなかった。

他の人から見ればなんで突然と思うかも知れない。

自分でもなぜだかわからない。

でも、私の中で何かが吹っ切れたのだ。

涙を拭って立ち上がる。

すぐにでも千景さんに報告したかった。

浜辺に下りていくと、ふわふわした茶色の毛が風で揺れていた。

「千景さんっ!」

千景さんは少し驚いた素振りでこちらを向いた。

「やっと、入れました」

「本当?よかったね、」

柔らかな笑みが深まって、どこか無邪気さを感じさせる笑みになった。

なんとなく、この人の本物の笑顔はこれなんだ、と思った。

「千景さんのおかげです」

「そんなことないよ。中に入れたのは乙葉ちゃんが頑張ったからだよ」

ふわっと千景さんの香りが強く香ったかと思えば、私は千景さんの腕の中にいた。

唐突に、この匂い好きだな、と思った。

「お疲れさま。頑張ったね」

千景さんの片手が私の頭をくしゃりと撫でる。

「…ありがとうごさいます」

千景さんの腕の中で、どちらのものともつかない心臓の音を聞いた。
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