宿り木カフェ

「あの」

私の声に彼は箸を止め、私を見た。

「こういうのは何度もやってらしゃるんですか?」

「いえ、今回が初めてです」

私は彼の答えに驚いた。

「ずっと仕事ばかりで、職場にも女性はほとんどいないので、実は心配した先輩がここに勝手に登録してしまいまして」

「え、もしかしてあのメールは松本さんが書いたんじゃないんですか」

「実はそうでして、すみません」

困ったように頭を掻いた彼に、唖然とする。

「先輩もまさかあんなプロフィールで返信が来るとは思ってなかったらしく、今日も先輩に言われるまで約束を忘れてました」

あはは、と彼は笑っているが、それ、いちいち正直に私に言う事だろうか。
もう少しごまかし方ってものがあるでしょうに。
私は相手があまりやる気が無いのだと理解した。
まぁそうだと分かれば、今日は気にせず食べて終わればいい。
一気に肩の力を抜いた。

「そうですか・・・・・・。
やきとり好物なんで頼んで良いですか?」

「どうぞどうぞ」

彼はにこにこと笑う。
そうして食べ方とか気にもせず、相手に取り分けることもなく、そのまま串でかぶりついた。
それを彼がじっと見ていた。

「なんですか?」

「あ、すみません、美味しそうに食べてるな、と」

「はぁ」

いつもは食べ過ぎると男性に引かれるので、少し小食ぶっていたりもしていた訳で。
もうこれは気にしないで良いと思ったので地が出てしまった。

「そういえば、松本さんって何の研究してるんですか?」

無言でお互い食べているのが辛くなった私は、一応話題を振ってみた。
私の質問に少し彼はきょとんとして口を開いた。

「天文学です」

「あー、星とかですか?」

「まぁそうですね」

「宇宙人っているんですか?」

私は唐突に聞いてみた。
なにせ天文だの星だの言われてもよくわからないので、興味本位で投げてみただけ。
しかし彼は私の質問を受けた後、顎に手を当てて考え込んでいる。

「今の質問はナシで良いです」

「いや、宇宙人という概念をどうしようかと思っていたのですが、おそらく一般の人が言う宇宙人ということであれば、いると思います」

「え?」

「えっ?」

私が予想外の答えに驚いていると、彼も驚いた。

「あれ?そういう質問だったのかと」

「あぁ、そうなんですけど、科学者の人ってそういうの否定するのかと」

そう言うと、彼は、あぁ、と納得したようだった。

「まだ宇宙の解明なんてほとんど進んでいないんです。
それが地球だけこういう人類が発達したなんて、確率論からしてありえませんね」

さっきまで見ていたぼんやりしていた顔では無く、引き締まった顔になった彼を少し驚いてみた。

「亡くなられましたが、イギリスのホーキング博士って知りませんか?車椅子の」

「あぁ、テレビで見たことあります」

「彼は理論物理学者なのですが、人間がいわゆる宇宙人に積極的に接触を持とうとすることに反対しています。
我々は何故か無意識に外からのものが善で来ると思っていますが、ホーキング博士の主張は、地球は侵略されるという考えです。
私も同感ですね。
今の興味本位のやり方は非常に危険で幼稚な行為だ」

つらつらとビールのジョッキを持ちながら話す松本さんを、私はぽかんと見ていた。

「・・・・・・・あ!すみません、つい」

「あぁ、いえ」

なんか気まずい。
その後なんとなくぎくしゃくして、もうそろそろと私から切り出して会計することになった。

「あ!」

彼は自分の服を触っていたが俯きながら声を出した。

「どうしたんですか?」

「財布を忘れてしまいました・・・・・」

「・・・・・・」

この人わざとなんじゃないかしら?
でもこの人なら本当に忘れたような気もする。

「いいです。
そんな大した金額じゃないですし、私が払いますから」

ため息をつきながら言うと、彼は再度必至にポケットをいじっているが出てきたのは、スマホと電車のICカードのみだった。

「名刺があればと思ったんですが日頃持ち歩かないもので・・・・・・」

「もう、いいですから」

なんだか面倒だ。
そわそわしている彼に席を立ちながら、

「松本さんはこの後は家に帰るんですか?」

「いえ、研究所に戻ります」

多分そうだろうと思った。

「なら先に帰って下さい。私は会計を済ませますので」

そういうと、本来この場で会計できるのに、私は伝票を持って立ち上がり、おろおろとしている彼を放置して会計に向かった。
今日はなんか散々だった。
三度目の投げやりに会って見た彼は、男性としてどこにも魅力を感じられなかった。
あげく財布を忘れるとかどうかしている。
その時点でどれだけこの顔合わせにやる気が無かったのかわかる。
普通なら失礼のないように持ち物くらい確認するだろう。
それだけ私を適当に思っていたのだと思うと、会計をしながらどんどん腹が立っていく。

会計を済ませ店を出ると松本さんが立っていて、慌てて私に頭を下げた。

「本当にすみません!」

「いいですから」

私はそれだけ言うとその場から立ち去ろうとした。

「あの!」

私は無言で振り向く。

「後でサイトの方にメールしますので!」

彼がまた頭を下げるのを、私は冷めた目でみていた。


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