宿り木カフェ


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「今回は例の理系オタクについて男性の意見が聞きたい」

初っぱなそう切り出した私に、ヘッドフォンから豪快な笑い声がする。

『どうぞどうぞ』

「待ち合わせ遅れて、店も予約せず、勝手に好きな事してしゃべって、あげく財布忘れて、口座教えてっていう輩よ?
どこが良いの?」

『それでそもそも婚活サイト登録したのもメールも本人じゃなかったと』

「そう。それでもアリだと思う?」

私は大まじめに聞いた。
なんというか、彼は割とダメな人だと思うのに、何故か絶対駄目だと言い切れない部分を感じていたのだ。

『そうやって俺に聞くって事は、何か彼に好感を持ってるんじゃないの?』

「好感というか、よくわからない人種で。
それに、同じサイトで婚活している友人が食いついて、私の見方が変なのかなと」

『ふーん。
ならもう一度会ってみたら?
その友人に取られる前にさ』

「いや、口座教えろってメール来たのよ?
普通そこは再度会う約束が取り付けられると誘ってこない?
それなりに好感向こうが持ってるならさ」

『そりゃ、貴女の今までの男はそういう事がスマートに出来る男ばかりだったろうけど、それはむしろイレギュラーじゃね?』

「仕事できる人だってそれくらい考えつくでしょ」

『頭は良いけど、気遣いとか出来ない人なんだよ』

前回の私の言葉を使い、面白そうにタクヤさんは言った。
私が黙っていると、タクヤさんが、

『良いから、もっかい会うセッティングしてみなよ』

と言ってきた。

「えー、私から誘うの?」

『受け身でいると、どんどん周囲から置いてかれるぞー。
そして友人に取られて後悔してもしらないからな』

結局私はその後、世の中スマートじゃない男の方がざらで、好きだから出来る訳では無いことを、延々タクヤさんから説明させられその日の通話は終了した。

私はその勢いのまま、既にかなりの日にち放置していた松本さんへメールを返信した。

「返信が遅れてすみません。
お金は返さなくて良いので出来ればその分、ご飯をご馳走してくれませんか?」

もっと洒落た文章も送れるが、なんだかこれで良いような気がした。




翌日返信は来なかった。
翌々日も来なかった。

私は送ったことをとても後悔していた。
滅多に自分から誘うなんて事をしていない私が、せっかく勇気を出してやったらこれだ。
やはり、女は求められてなんぼなのよ。
そして私は性懲りもなくまた朝メールを確認した。

「え、来てる」

婚活サイトの受信ボックスに松本さんから来ていて、私は中を見た。

『すみません、風邪を引いて寝込んでいます。
後日連絡しま』

「連絡しま、って何?!
まさか打ってる途中で倒れたとかじゃないわよね?!」

送信時間を見てみれば午前2時過ぎ。
なんでこんな時間に。
仕事場に連絡してみようかと思ったけれど、考えて見たら名刺ももらっていなければ個別の連絡先も交換していない。

「あー!まさかこれが最後のメールになっていないでよ?!」

私はこのメールのおかげで数日、不安な日々を過ごした。

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