神様どうか三つ股愛をお許し下さい


下田槙人(しもだまきと)    俺
沖野玲香(おきのれいか)    課長補佐
原本菜未(はらもとなみ)    後輩
立花凪咲(たちばななぎさ)    新入社員


 午後の仕事が始まってすぐだった。
「下田くん、この書類の数字間違いがないかチェックしておいて。」
「はい。」
朝からひとりでずっと資料室にこもって仕事をしていた課長補佐で新しく始まったプロジェクトリーダーの沖野玲香が分厚いファイルを持ってきた。
「明日提出なんだけど良いかしら。」
「じゃ、今日中ですね。」
「そう、悪いけどお願いね。」
「はい、わかりました。やっておきます。」
かなりの分量なので残業になりそうだ。他の仕事を後回しにしてその書類をめくり始めた。チェックが8割方終わったところで終業時刻になった。
「下田さん、まだ終わらないですか?」
同じチームで後輩の原本菜未が声をかけてきた。
「もう少しかかりそうだな。」
「ふ~ん、じゃ私も残業しようかな。」
「余計な残業なんかしないで早く帰れよ。」
「は~い。」

俺はその後も2時間近く書類をチェックしていた。そして
「はぁ~っ、やっと終わったな。」
大きく伸びをしてひとりごとを言った。
すると間髪を入れず、菜未がまた声をかけてきた。
「下田さん、終わりましたか?」
「え?何だ、菜未さんまだいたのか?」
集中していたので菜未がまだ残っていたのに気づかなかった。
「ええ、ちょっと急ぎの仕事を思い出したので。」
「そう、菜未さんも終わったの?」
「私も終わりました。」
「じゃ、帰ろうか。」
「はい、一緒に出ましょう。」
まだ残っている他のグループの社員に声をかけて俺たちは席を離れた。

「下田さん、やり手の沖野さんからも信頼が厚いですね。」
「う~ん、どうなのかなぁ。俺なりに一生懸命やってるだけなんだけどね。」
「沖野さん、すっかり下田さんにベッタリなんですもん。」
「ベッタリだなんて、別にそんなことないだろう。」
「ううん、下田さんは若手のホープだから沖野さんからも気に入られてるって、女子は皆言ってるんですよ。」
「それは言いすぎだろう。」
「いいえ、だから『素敵な下田さんと一緒にいられるのが羨ましい』って、私いつも言われてるんです。」
「そんなにおだてても何も出ないぞ。」
「そんな事言わないで折角待ってたんだからどこか寄って行きましょうよ。その代わり女子の裏情報を色々教えてあげますよ。」
「ん~、そうだね、たまには良いかな。」
若い女子社員から持ち上げられて満更悪い気分じゃない。
「やったー!居酒屋に行きましょう。」
「菜未さんお酒強いのか?」
「かなり飲めるんですよ。」
「ふ~んそうなんだ。頼もしいね。」
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