姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 雅貴さんは面食らったような表情になり、なにかを堪えるように眉根を寄せて、口もとを手で覆う。

 もしかして困らせてしまった? 実は彼のほうが嫌だったとか……? それとも私がまた無理をしていると思われたのだろうか。

「本当です。本当にしてほしいです」

 慌てて懇願するように言い添えた。

「……まいったな」

「え?」

「しても大丈夫、じゃなくて、してほしいの?」

 いきなり男っぽい目をした彼に、ドキッとした。

 うなずいたら、顎の下に長い指を当てられて、くいっと上を向かされた。

 至近距離まで彼のきれいな顔が近づく。

 やっと唇にキスしてもらえる――。

 念願の瞬間を迎えるために強く目を瞑ったのに、雅貴さんの唇が触れたのは私のおでこだ。

「……あの……」

 違う、そこじゃないのです、と訴えたいのに言葉にできない。せっかくここまで勇気を振り絞ったのにもかかわらず、あと一歩が踏み出せなかった。私のへたれ。

「そろそろレストランに行こうか」

 口をパクパクさせていたら優しく微笑まれ、もうそういう雰囲気じゃなくなってしまった。

 雅貴さんの眼差しは今朝も、『焦らなくていい。ゆっくりでいいよ』と語っている。初夜同様に玉砕決定だ。

 スイートルームの宿泊者だけに許された高層階のレストランで贅沢な朝食をいただくも、つい何度もため息が出た。

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