すみっこ屋敷の魔法使い
 ぱ、と目を開ける。

 暗い暗い屋敷にいたときの記憶。目を閉じればまぶたの裏に広がる闇の底。

 今でも、夢に見る。

 イリスとやさしい時間を過ごしたあとに。それでも夢を見る。

 イリスと楽しい時間を過ごしたあとに。それでも夢を見る。

 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。

 エディの屋敷で刻まれた哀しみが、消えてくれない。

 モアは起き上がり、ちらりと視線を落とした。そこには、すやすやと眠っているイリス。何度見ても彼は美しくて、きれいで。まるで私と別世界の人間のようで。

 その髪の毛にそっと触れてみたいのに。遠い遠い星に手を伸ばすように、それ叶わぬ夢。私は彼に触れてはいけない。

 モアは居心地が悪くなって、布団から這い出た。あんな夢を見たあとで、彼の隣にはいられなかった。

 ごめんなさい。穢くてごめんなさい。

 心のなかでそう言って、モアは寝室をあとにする。
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