意地悪で優しいあなたの溺愛
「ま、まぁ、とりあえず勉強、しよ?」

花梨の声がかかって、それぞれが勉強道具を取り出しはじめる。

私は苦手な数学をやることにする。

「右京くんめっちゃ頭いいし、教えるの上手いから胡桃もわかんないところあったら聞いてみて」

「そんなことないよ。花梨の飲み込みが早いからだよ」

少し前まで喧嘩していたとは思えないほど仲のいい二人が、正直うらやましい。

私もいつか、左京くんとあんな風に…

っ!なにを考えているのだろう。

左京くんは私のことが嫌いそうだし、まず、私だって左京くんのことを恋愛的に好きなわけじゃない。

……多分。

「ここは、この公式に代入して…」

右京くんが花梨に教える声が聞こえる。

私もこんなことを考えていないで勉強しないと、テストの結果が最悪になってしまう。

ワークに向き合っていても、先ほどの左京くんの言葉がぐるぐる回って上手く集中できない。

しかも、時々わからないところがある。

花梨に教えている右京くんに解き方聞くわけにはいかないし、左京くんに聞けるほど図太くもない。

わからない問題はひたすら飛ばし続け、少しでも早く家に帰りたいと願う。

もう、この空間には居たくない。

勉強し始めてから約1時間。

私の様子に気づいた花梨が声をあげてくれた。

「まだあんまり勉強出来てないけど、今日はここまででいいかな?色々あって疲れちゃったから」

「そうだね。花梨もだいぶ出来るようになったし」

右京くんはほとんど自分の勉強をしていない。

左京くんもワークを開いてはいるものの、あまり進めている様子はなかった。

「ごめんね、ありがとう。胡桃、帰ろう」

「っ、うん。おじゃましました」

私たちは荷物をまとめて家に帰った。
< 35 / 61 >

この作品をシェア

pagetop