シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
 利香は今にも泣きそうな顔になっているが、明人はそんなことに構うことなく別のところへ視線を向ける。
 彼はちょうど通りかかったタクシーを拾って利香に乗車するように促した。

「ねえ、最後に教えてよ」
「何?」

 明人は変わらず冷めた表情で訊ねる。

「なぜ、あの子なの? 何の取り柄もなさそうな、何も考えてなさそうな子じゃない。どうしても、あなたにふさわしいとは思えないのよ」
「何を基準にそう言っているのか知らないが、ひとつだけ教えてあげるよ。彼女は、俺のそばで笑ってくれる」

 利香は拍子抜けしたような顔になる。

「え……そんなこと?」
「そうだよ。それで充分だ。君とは結構長く一緒にいたのに、何回笑ったことがあっただろうね?」

 利香は目をそらし、うつむく。

「お互いに、合わなかった。それだけだ」

 明人はふらつく利香の背中を押してタクシーに乗せると、自分は車から離れた。

「それではお疲れ様でした」

 明人が淡々と挨拶を口にすると、利香は顔を背けたまま黙った。
 ドアが閉まると、利香を乗せたタクシーは走り去っていく。
 明人はそれを見送って、深いため息をついた。

「……疲れた」

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