憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
8章・夫婦の秘め事

秋の航空祭

 私と航晴が結婚してから、約一か月後。
 十月二十日は、ベリが丘のヘリポートが中心となり、ウエストエリアの公園スペースの一部を使って航空祭が行われる日だ。

 我がLMM空港も、航空会社の協賛ブースエリアで子ども向けのCA体験や、疑似コックピット内でシミュレーターを使った操縦体験を行う。

「空の上とは勝手が違うかもしれないけれど、陸の上での活躍を期待しているよ」

 お父さん、操縦体験を任された航晴、CA体験ブースで働く私と倉橋、お客様のご案内を任されたフロントスタッフ二名――合計六名が、今日ここでチームを組むことになったメンバーだ。

 社長の号令と共に頭を下げた私たちは、各々持ち場について業務を開始した。

「お飲み物は、いかがですかー!」

 CA体験に参加したいと名乗りを上げた小さな子どもたちと一緒に、私は本日のメインイベント。
 ブルーインパルスを一目見ようと列に並んでいる人たちにドリンクを販売して回っていた。
 滑車のついたドリンクケースをコロコロと転がせば、子どもたちの元気な声が響き渡る。

「ドリンクって、何があるんですか?」
「……お客様に、説明してみましょう」
「えっと……」

 小さなお子様にもわかりやすい、大きくひらがなで書かれたメニュー表を手渡す。
 うまく読めない子には、耳元で囁いてサポートする。
 子どもたちは緊張した様子で必死にひらがなを読み上げていた。

「えっと……オレンジジュース、さんびゃくえん……。炭酸飲料……ごひゃくえんです……!」
「じゃあ、オレンジジュースを三本ください」
「どうぞ!」
「ありがとう」
「900円になります」

 お金のやり取りは、間違いがないように大人の私たちがする決まりだ。

 あんまり遠くへ行くと、体験終了時間までに戻ってこられない。

 最初のうちは恐ろしくてブースが見える近隣の場所でしか販売できなかったけれど、メインイベントが始まる時刻が近づくと、だんだんもっと遠くの場所でも移動販売を行うことができるようになってきた。

「完売でーす!」
「LMMの移動販売は終了しました。次の回をお待ちください!」

 その頃にはまばらだった人たちが広場内で密集し、小さな子どもたちを連れて移動販売をするのが難しくなってくる。

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