憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 滑車の中へ満タンに入れて出発したはずなのに、五分と満たない間に完売してしまうし……子どもたちの安全を考慮するなら、これ以上の体験受け入れは困難だ。

「キャプテン! 移動販売の体験は中止にしてください! 人が多すぎて、危険です!」
「ああ。人が落ち着くまで中止にしよう」

 今はプライベートではなく、仕事中だ。
 父親と呼ぶわけにはいかない私は、今まで通りあの人をキャプテンと呼ぶことにした。

 許可を得た私は、移動販売からCAの衣装に身を包んだ小さなお子様たちとの写真撮影に切り替える。

「やっぱ、LCCは駄目だな!」

 準備の最中、近隣ブースの体験を終えた男性客同士の会話を耳にした。

 あまりにも大きな声だったことから、何事かと通行人たちが彼らを怪訝そうな表情で見つめている。

「それな! あんなの、金取っていいレベルじゃねぇよ!」
「やっぱLMMだよな~」

 どうやら、近隣ブースでマーマレイド航空がLMMと同じように飲み物を販売しているらしい。
 彼らはどちらも口にした上で、こちらのほうがおいしいと感じたようだ。

 ありがたいことではあるけれど……悪く言われている航空会社のことを思えば、素直に喜べなかった。

 マーマレイド航空といえば……。

 オーベルジュで航晴が迷惑していると告げたご令嬢よね。
 彼女を思い出した私は、微妙な顔をするしかない。

 前回、不可抗力とはいえ恥をかかせているし……逆恨みされてもおかしくないわ。
 この会場に来ていないことを、願うしかないわね。

「キィ~! またLMMなの!?」
「お嬢様、落ち着いてくださいませ」
「落ち着いていられるわけがないでしょう!? 一度ならず二度までも……!」
「納得できないお気持ちはわかりますが……」
「ふんっ。これが最終通告よ! 三度目は、容赦しないんだから!」

 ああ……やっぱり来てたか……。

 前回一緒に居た男性を付き従えたお嬢様は、こちらのブースを指差して満足したのか、スカートの裾を翻した。

 虚空に向かって宣言するなど、どうかしているわ。
 付き人さんも大変ね。

 こちらの視線に気づいた男性が何度も頭を下げる姿を眺めながら、私は写真撮影を始めた。

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