憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 でも、有名だったり資産家な人たちから顔が見たいと言われたら、挨拶しないわけにもいかなくて……。

 父親と航晴が勝手に選び無断で購入したまま、タンスの肥やしと化していたパーティードレスを引っ張り出しては連日対応に当たっていた。

 CAとしては休暇扱いのはずよね……?

 自宅でのんびりと穏やかな日常を楽しむはずだったのに。

 ティーパーティーやお食事会、玄関先の立ち話から込み入った話まで。
 朝から晩まで著名人の相手をし続けるハードな生活を送っていた。

「大丈夫か……?」
「大変だわ……。乗客の命を預かっている時よりも、緊張するのだけど……!」

 四連勤を無事に終えた旦那様を出迎えた私は、パーティードレスを身に着けたまま泣きついた。
 誰と会話したのかすらも曖昧なくらい、高そうなドレスやアクセサリーを身に着けた女性たちから挨拶を受けたこと。
 必死に天倉の娘として挨拶が遅れて申し訳ないと連日謝罪を続けていたのだと話せば、航晴は優しく慰めてくれる。

「大変だったな」
「もう、毎日がてんやわんや……。マナー講座にでも通おうかしら……?」

 粗相をすれば、天倉や航晴の名に傷がつく。

 庶民としての生活が長い私にとって、富裕層との歓談は命がいくつあっても足りない戦場だった。

「……随分と、顔色がよくなったな。毎日、充実しているように見える」
「そりゃ、ね。家にいても、やることは変わらないわ。訪問されたお客様に楽しんで頂けるような接客を心がける。それが空の上か、地上の違いでしかない」
「……確かに。四日で気づくとは……さすがは俺の妻だな」
「当然でしょ。だって私は、優秀な副操縦士の奥様ですもの」

 航晴は副操縦士を強調されたのが気がかりなのか、肩を竦めてから頷く。
 浮かない表情でため息をついたので、何事かと彼を見上げて紡がれる言葉を待つ。

「俺も早く、機長にならなければ……」
「天倉機長が二人なったら、困惑するわね」
「……旧姓で呼んで貰おう」
「三木機長って?」
「ああ。下の名前で呼ばれるようになったら、妻が嫉妬すると説明すればいい」
「私がCAとして復帰したら、あの夫婦はって白い目で見られるわよ」
「知ったことか。俺たちの仲を疑うものは、馬に蹴られたらいいんだ」
「それはどうなのかしら……?」

 何よりも、真面目な顔をして口にするようなことではないわね。
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