憧れの副操縦士は、許嫁でした～社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる～

あなたと一緒なら幸せ

『ベリーズ空港にて、ＬＭＭ航空の社長令嬢を狙う誘拐未遂事件が発生しました』

　数日後。
　例の件は、思っていた以上に大きく事件として報道されてしまった。

『犯人は容疑を否認しており、マーマレイド航空の令嬢に頼まれたと主張しています』

　天倉の車を奪い、ベリーズ空港にやってきた男は私を拉致しようとしたが失敗。
　逮捕後、マーマレイド航空のご令嬢が悪いとしきりに叫んでいたそうだ。

　これを受けて、ＬＣＣは急遽会見を行った。
　お騒がせして申し訳ない。事実無根であると社長が説明を行う中、事件は起きる。

『わたくしは悪くありませんわ！　どうしてお父様が謝罪をしなければなりませんの!?　悪いのは、あの女ですわ！　三木さんを奪った！　あの女が……！』

　マーマレイド航空のご令嬢は、全国に生中継されていることを知らずに三木の名を出してしまう。

　お茶の間で思い浮かべられるのは、航晴ではなく彼の父親。
　三木議員のほうだ。

　若い女と不倫したのではないかと事実無根な悪意を向けられた議員は大激怒。
　ご令嬢に息子が言い寄られて困っていたと口を滑らせてしまい、こちらまで火の粉が飛んできた。

　それからもう、どこもかしもお祭り騒ぎ。

　ＬＭＭは被害者なので、利用客が減ることはなかったけれど……。

　マーマレイドのほうは癇癪持ちのご令嬢がいると噂になった瞬間から、彼女からパワハラを受けたと複数人の乗務員が連盟で週刊誌に告発。

　信用が失墜し大炎上。
　警察が任意で彼女に事情を聞いているとのことだ。

　大変そうねと、対岸の火事を眺めている場合ではない。

　ＬＭＭ航空も社長に隠し子がいること、三木議員の息子が夫であると報道された上、週刊誌に実名と顔写真を拡散されてしまった。

　この状況ではＣＡとして働くことなどできるはずもなく、安全のために暫く天倉の家へ身を寄せている。

　私の生活はあの事件によって、一変しつつあった。

　ノースエリアは元々厳重な警備を誇る高級住宅街として有名だから、マスコミは文字通り自宅まで押しかけてはこられず、門前払いされているのだけれど……。

　金持ちの道楽とばかりに噂の令嬢を一目見ようと押しかけてくる富裕層連中の訪問には、正直参っていた。

　自分たちより地位の低い人間は両親が対応してくれている。