憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~

サウスエリアのショッピングモール

 サウスエリアのショッピングモールは、思っていたよりも庶民派だった。

 100円均一、有名ファストフード店、ファミリーレストラン――。

 日本の最先端を発信する施設や気品溢れる佇まいの店は、櫻坂やビジネスエリアに集中しているのだろう。
 ファッションエリアに私でもわかる有名なハイブランドが数件あるくらいで、忌避するほどのものではなくて安心する。


「ご機嫌だな」
「初めて訪れる大型ショッピングモールを前にしたら、誰だってワクワクするものよ」

 これだけ広ければ、すべてのテナントを見て回るだけで日が暮れてしまいそうだわ。

 彼はここに来てから水を得た魚のように輝き始めるこちらの様子を見つめ、困惑しているようだった。

「不機嫌そうにしているほうがよかったの?」
「いや。意外だった。ステイ先で自由時間があっても、千晴は集まりに顔を出さなかっただろう」

 航空機に携わるクルーには、ステイと呼ばれる待機時間が存在する。

 物理的に帰社できない場合は、現地のホテルに宿泊するのだ。
 フライトによってまったく自由時間がなく寝るだけの場合もあるけれど、状況によっては観光する機会がある。
 私はどちらにしてもステイ先から外出することなく、与えられた部屋に引きこもってた。

「当然よ。知らない土地で仲がいいとは言えない人間と一緒に観光なんて、地獄の時間としか思えないわ。あなたも、そうしたタイプだと思っていたけれど。違うの?」
「俺も積極的に外へ出るタイプではないが……。キャプテンがな……」

 あの人は優しいから、よほどのことがない限りは誘いを断らない。

 右腕と名高い彼は行動を共にせざるを得えず、どうやら頻繁にほかのクルーたちと一緒に自由時間を満喫していたようだ。

「お母さんといろいろあったって言っていたけど、ステイ先で浮気を疑われるような行動をしたから、とかじゃないわよね……?」
「そこまでは……」

 言葉を濁した辺り、その可能性はゼロではないのかもしれないのが恐ろしい。

「今後そうしたことがあっても、誘わないほうがいいだろうか」
「ステイ先での観光?」
「ああ」
「そうね……。あなたは私としたかったの?」

 彼はなぜか、目を見開くと視線を反らした。
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