憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 これから向かうオーベルジュは、数百万の金を平気な顔して動かす豪富たちが贔屓にしているお店だ。
 使い古しの畳み皺がある洋服で足を運んだら、店の雰囲気にふさわしくないと入店を拒否されてしまうかもしれない。

『それじゃあ、またあとでね』
「ええ。お母さんも、気をつけて」

 それだけは、絶対に避けなければ!

 母親との通話を終え、慌てて踵を返し来た道を戻る。
 べリが丘で安価な服を好む私が服を調達しようと思っても、目当ての衣服は手が届かない値段で販売していると想像がついたからだ。

 ――あそこで買うくらいなら、空港の免税店でそれっぽい服を買って着替えたほうがお財布に優しいわ……。

 そう考えた私は空港の量販店に到着し、無地のAラインワンピースとボレロに目をつける。

 ――1万のワンピースと、5000円のボレロ……。
 社割が効いても、12000円か……。

 べリが丘で購入しようと思ったら、この十倍の値段がしてもおかしくない。
 そう考えれば仕方ないかと思えるけれど。
 これから無料で高級料理を食べられるとしても、同程度の金額でドレスコードを守るための服を買い揃えていたら意味がない。

 ――もっとランクを下げる?

 オーベルジュに出入りする富裕層にとって、10000円程度と100000万以下の服を比べたところで、どちらにしても粗末な服としか認識されないでしょう。
 どうせみすぼらしいと思われるのならば、できる限り安く揃えたほうがいいに決まっている。

 人生は何があるか、わからないのだから。

 そう決めた私は、洋服のランクを落とすことにした。
 3500円のフレアワンピース、1500円のパールネックレス、3000円のボレロ。
 靴は履き馴れたハイヒールを使い回す。
 従業員証代わりのIDカードを店員に見せることで社割の20%を適用して貰い、6400円でフルコーデが完成した。

「身に着けていきたいんですけど。試着室をお借りしてもいいですか」
「どうぞ」

 購入したばかりの服を試着室で着替え、自前のスプリングコートを羽織れば準備は万端だ。
 残り三時間は、空港内のカフェで暇を潰そう。

「ありがとうございました」

 そうして私はスーツケースを転がし、洋品店をあとにした。
< 6 / 139 >

この作品をシェア

pagetop