憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~

結婚初夜は、甘く

「結婚おめでとう」

 ――10月上旬。
 オーダーメイドの結婚指輪は急ピッチで作成が進められ、私たちはベリが丘のオーベルジュで挙式を上げた。

 両親は涙ぐみながら私のウエディングドレス姿を激写しては、ノースエリアで暮らす著名人たちに紹介して回る。
 CAとして培った作り笑顔を全面に押し出し、どうにか来賓の皆様に不快感を与えることなく式を終えた。

「お疲れ様」
「お母さん……」
「航晴くんと、ゆっくり休みなさい」
「……ありがとう」

 控室にやってきたお母さんは、労りの言葉をかけてくれる。

 笑顔でお礼を言えば――彼女の背中に大きな身体を隠すような姿勢で、キャプテンが申し訳無さそうに肩を落としている姿が見えた。

「千晴」

 この人が生みの親であることは間違いないのだから、いい加減認めてあげなければかわいそうだ。

 そろそろいいんじゃないかと、航晴には何度か諭されている。

 私がLMMの娘であると明らかになる直前――あの人は不眠症であると診断を受け、パイロットとして操縦桿を握ることはなくなった。

 お母さんとのんびり穏やかな生活をしながら社長業に専念しているうちに、だいぶ症状は改善されたようだが……。
 ストレスの元が断絶されない限り、完治は難しいと言われたようだ。

 キャプテンがストレスを感じていたことは、愛する妻と子を捨て、LMMを担う後継者としての道を選び取ったこと。
 私はそれが許せなくて、ずっと父と呼べないでいたけれど――。

「航晴はあなたのことを、プライベートではこれからお義父さんと呼ぶみたいだから……」
「あ、ああ……」
「……お父さんって、呼んであげてもいいわよ」

 少しそっけない態度になってしまったけれど、あの人にとっては何十年と待ち望んでいた言葉だもの。

 きっとその呼び名だけでも、満足だったのでしょうね。
 彼はひと目を憚らずに涙を流しながら、私に四角いプレゼントボックスを手渡してきた。

「結婚、おめでとう……千晴……。父親として、幼少期を過ごすことはできなかったが……これからは、あの時してやれなかった分だけ、愛を注ぐと……」
「必要ないわ。人肌恋しいときは、航晴を頼るから」
「そんな……!」

 泣き崩れたお父さんを慰めるのは、お母さんの役目だ。
 付き合っていられないと肩を竦め、航晴を連れて控室を出た。
< 93 / 139 >

この作品をシェア

pagetop