憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「はぁ……疲れた……」

 私たち夫婦は両親と別れ、オーベルジュで挙式を終えた夫婦だけが宿泊可能な特別室でくつろぐ。

 ソファーの背もたれに寄りかかってため息を溢せば、隣に座って腰に手を伸ばしてきた航晴が話しかけてきた。

「顔合わせをしたときに訪れた際は、露天風呂を堪能する時間もなかっただろう」
「そうね」
「一緒に入るか」

 航晴から提案されたことを話半分に聞いていた私は、どこで何をするのかを考える。

 客室には天蓋つきのキングサイズベッドがあるけれど、ここを二人で使う際は〝共に寝よう〟が誘い文句としては正解だろう。

 入るかと称される場所は、一つしかなくて――。

「べ、別々に身を清めるわ!」
「そうか。それは、今後に期待しよう」
「そんな機会は、訪れないわよ!?」
「どうだかな……」

 含みのある笑みを浮かべて、機会があれば実現したそうな空気を醸し出さないでほしい。
 一緒に露天風呂へ入りたいってことは……いろいろな意味が隠されているものね……?

「顔が赤いぞ」
「し、指摘しないで……っ!」
「かわいいな」
「もう、知らない!」

 航晴を喜ばせる結果となってしまい、私は慌てて両親が新婚祝いとしてプレゼントしてくれた入浴セットを手にとって露天風呂へ引っ込んだ。

 ――入浴したあとに、中身を確認してねと言われたけれど……。

 水気を拭ったタオルを巻いて身体を隠した私は恐る恐る、四角い箱を開封した。

「な……っ!」

 一瞬口から出た悲鳴をどうにか気合で飲み込み、箱から出てきた衣服を凝視する。

 これは……セクシーランジェリー……?

 胸元に七色の蝶を象ったブラジャーに、フリルスカートと一体化した白のショーツ。水着だと思えば……どうにか彼の前へ身に着けて姿を晒せるかしら。

 全裸にタオル一枚か、両親からプレゼントされた下着を身につけ、旦那様の前に姿を見せるか……究極の二択ね……。

 長い間考えていたけれど、どちらも選択したくない。
 最終的に三つ目の選択肢を選び取った私は、身支度を整えると航晴の前に姿を現した。

「ま、待たせたわね……」
「……あぁ……」

 純粋な返答か、残念そうにも聞こえる声は、はっきりしなくてどう反応すればいいかわからなかったけれど――妻が突然バスタオル一枚の姿で出て来たら、夫が驚くのも無理はないでしょうね。

 私は前者の反応だと認識し、彼に身を清めるよう促した。
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