プルメリアと偽物花婿
 暗くて苦い過去が一瞬で引き出された私はあの時どんな顔をしていたのだろう。
 
 なんとか笑顔を張りつけて「初めまして」とは言えたと思う。下まで送るという和泉になんとか理由をつけて、逃げるように車に飛び乗った。
 帰り道にあのコインパーキングを通り過ぎた。十年経っても変わりなくここにある。十七歳の私が悲鳴を上げた。


 **

 一人、部屋に戻りベッドに転がる。
 気持ちが落ち着かずいろんなサイトをスマホで眺める。頭に先生の顔が浮かぶのをなんとか振り切りながら。
 ――ふいに、着信があった。
 ちょうどスマホを操作していたから電話に出てしまった。慌てて確認すると知らない番号だ。

「もしもし、下谷です」
「ああよかった。番号変わってなかったんだ」

 一瞬で心臓が凍る。忘れていたはずの声なのに。

「どなたですか」
「久々だね、凪紗。今あのパーキングに来てるんだけど出てこれない?」
「用件があるならこのまま話してください」
「直接会いたいんだけど。――それなら俺が行こうかな、凪紗の実家に」

 楽しそうな声が聞こえる。一体どういうつもりなんだろう。
 だけど。本当に来てしまったら……。
 婚約破棄からの新しい彼氏、そこにまた別の男が夜に現れる。家族にとって心配しかない。

「……わかりました」

 
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