プルメリアと偽物花婿
　和泉の告白は嘘をついているようには見えなかった。だけど今まで一度も恋愛的な好意があるようには思えなかったのも本当。取引先の接待の後や案件がうまく行った日には二人で飲んだこともある。だけど本当にちらりともそんな雰囲気になることはなかったんだから……！
　
　そもそも和泉はかなりモテる。アイドルグループにいてもおかしくないほど甘い顔立ちに色素の薄い瞳と髪の毛、小さい顔に長い手足、優しい声と物腰の柔らかさ。和泉の女性人気を見抜いた部長が、マーケティング部から引き抜いてきたほどなんだから。実際取引先の女性は和泉を目にした途端そわそわし始める。
　もちろん社内人気も抜群で、ランチに飲み会に、和泉を誘う人は多い。
　そんな和泉は定時にさっさと帰る要領のいい人で、会社の公式の飲み会や接待以外顔を出すことはないらしい。私と菜帆との飲みにはよくついてくるから、人付き合いがよく他の人たちの飲み会に参加しているのだと思っていたんだけど。
　誘いに乗らず早く帰宅する和泉は、大切にしている彼女がいるのではないか、ともっぱら噂になっていた。し、私もそうなんだろうと思っていた。

　噂や彼女について訊ねたことはない。私は一時的とはいえ和泉を指導する立場だった。今どきセクハラとか厳しいし！　後輩の恋愛事情なんて絶対聞いてはならないやつだ。和泉はあまり自分のことは語りたがらなかったし。
　
　それに私と和泉は共に食事をすることはあっても、それは全て会社の延長の時間だけで、休日に会ったこともなければ、営業スマホの連絡先しか知らない。

　だから、やっぱり。和泉が私の新郎に立候補するなんて信じられない。

　目の前にいる和泉は私の気など知らず、ご機嫌で白のタキシードを試着している。
　……手足の布が明らかに足りていない。
　私と五センチほどしか変わらなかった山田さんより、和泉は十センチ以上背が高い。

「先輩、俺なかなかかっこいいんじゃないですか」

　いわゆる、つんつるてんの不格好な姿でまじめに言うから私は吹き出してしまった。
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