プルメリアと偽物花婿
「お見合い結婚みたいなものだし。恋愛として好きだったのかはわからない。私がこんなだから婚約破棄されたんだろうけど」
「きちんと話し合いもせずに一方的に破棄するのは相手が全面悪いですし、先輩に非はないですよ」

 海老の殻を剥きながら怒ったように和泉は言った。荒い口調の優しい言葉が私の喉に詰まる。

「私の中で、結婚するって覚悟ついてたんだけどなあ」

 しんみりとした口調になってしまった。

「ってごめん。元婚約者の話しちゃって。デリカシーなかった」

 いつもの和泉と話すように気軽に口に出してしまったけど。和泉は私のことを好きだと言ってくれて、花婿代理に立候補してくれている。そんな和泉の前で元婚約者の話をするのはよくないことのように思えた。

「いいえ、どれだけでも話してくれてもいいですよ」
「え?」
「この旅行中に先輩の身体から膿を全部出しきらないといけませんからね」

 和泉はグラスから口を離すと、口角を上げた。

「でも確認できて良かったです。先輩はあの男のことを恋愛として好きではないって。結婚相手として、必要だっただけですね」
「そこまでは言ってないけど……」
「それくらいの温度感なら俺が心に入る余地は全然ありそうなので、良かったです」

 空になったグラスを置いて和泉は白い歯を見せた。
 
「次のドリンク何にしますか?」

 和泉のストレートな物言いになんと返せばいいか困っていた私に、和泉はメニューを渡した。
 ずるい。和泉の気持ちに返事をしなくても良くなる。

「ピニャコラーダにしようかな」

 和泉の気持ちに甘えて、私はハワイらしいカクテルを指さした。

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