プルメリアと偽物花婿
 そうしているうちにテーブルの上はあっという間に料理でいっぱいになった。私たちはそれらの写真を何枚も撮った。せっかくなのでハワイ記事を作成しようとホテルの部屋からずっと写真を撮り続けている。

「ここはロコモコが美味しいんですよ。がっつり米ですけど、これは食べたくて」

 割っていいですか?と和泉は断りを入れてから、半熟の黄身をスプーンで割る。たっぷりかかったグレービーソースに黄色が流れていく。

「美味し……! お肉、ちょっと変わった味がする?」
「牛肉だけでなくベーコンも入っているみたいですね」
「それかあ。このジャンキーさがいかにもハワイって感じで最高だね」
「ですよねー」

 お酒が進んで口からいつもより動く。はしゃいでいるのをもう隠せないけど、別に今は会社にいるわけではないし。頬が緩んでしまっても許せるはず……!
  
 ロコモコ以外には、マグロのポケボウルや、ガーリックシュリンプ、チーズのかかったフライドポテトなど。これぞハワイというメニューたちは抜群にお酒に合う。

「なんか、全部忘れちゃいそうだなあ」
「海外ってすごいですよね」
「うん、本当に」

 非現実だ。日本語のメニューがあって、日本語が通じて。日本でも愛されているロコモコを食べているけど。
 肌に感じる空気が違って、なんだかずっと気持ちが高まっている。ふわふわと、足に地がついていない感じだ。

「現実のはずなのに、夢に思える」

 ビールを飲み干す。さっぱりとしたビールが喉の奥を通っていく。

「はあ、婚約破棄も全部夢だったらなあ」
「あの男のこと、そんな好きそうには見えなかったんですけど」

 和泉が遠慮なく言った。和泉には前にもそう言われた気がする。「先輩って婚約者のこと、本当に好きなんですか?」って。
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